名古屋工業大学は2021年8月20日、同大大学院工学研究科の研究グループが、フィルム内で局所的に硬さ(弾性率)を変えられる樹脂の開発に成功したと発表した。
研究グループは、熱に反応する熱架橋性官能基と、特定の波長の光に反応する光架橋性官能基を組み込んだポリマーを設計した。このポリマーを架橋剤と熱反応させると、まず熱架橋性官能基のみが反応し、室温で柔軟性や伸縮性を示す樹脂であるエラストマーフィルムができる。さらに、この自己支持性の高いフィルムに紫外光を照射すると、光架橋性官能基が反応して架橋密度やガラス転移温度が変化した。
エラストマーの架橋密度が高いと高弾性率、低伸長となり、架橋密度が高いほど、ポリマー鎖の分子運動が活発化するガラス転移温度は上昇する。今回の分子設計では、紫外光を照射した際に弾性率が0.1MPaから66MPaまで変化し、その差は100倍以上となった。
また、紫外光の照射を局所的に行うと、場所によって弾性率が異なるフィルムができることから、スリット数やスリット面積を調節したフォトマスクのフィルム面に高弾性部分と低弾性部分をパターニングしたうえで、力を加えて変形させる実験をした。すると、変形方向に対して水平なパターニングでは変形しやすい部分と変形しない部分を自由にデザインでき、垂直なパターニングでは一部に亀裂が入っても全体に広がりにくく、破壊されにくくなることを発見した。
この技術を発展させれば、同じ素材を使って異なる伸長特性や破壊特性を個別に調節できるようになる。このため、目的に合わせて素材を選ぶ必要がなくなり、省エネルギーや人的コストの削減につながると期待される。今後、研究グループは同心円状やドット状のような複雑なパターニングについて研究を進め、より緻密な力学物性調節を可能にすることで、ロボットやフレキシブルデバイスなど先端分野への活用を図っていく。