- 2023-3-29
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京都大学は2023年3月27日、同大学および千葉大学、九州大学、北海道大学の研究グループが、ペロブスカイト太陽電池の高性能化を可能にする三脚型の正孔回収単分子材料(PATAT)を開発したと発表した。
ペロブスカイト太陽電池は、塗布法で作製可能な次世代の高性能太陽電池として注目を集めている。これまでは、主に発電層のペロブスカイト半導体薄膜の品質を高めることで、光電変換効率が向上してきた。
一方で、光吸収によりペロブスカイト層で生成した電荷を選択的に取り出す電荷回収材料の開発が、さらなる特性改善に向けて求められている。特に、正孔回収材料は、ポリトリアリールアミン(PTAA)など既存のp型半導体材料を超える性能を有するものがほぼ見つかっていなかった。
既存の研究では、単分子膜を正孔回収層として使用することで、比較的良好な光電変換効率と高い安定性を有するペロブスカイト太陽電池が得られることが分かっている。ただし、この研究では、π共役骨格に吸着基(アンカー基)を1つ導入した一脚型の分子を用いており、π共役平面が透明導電性基板に対して「立った」構造(垂直配向)になっていた。
基板に分子が「寝た」構造(水平配向)で単分子膜を形成できれば、ペロブスカイト層と単分子膜材料との軌道の重なりをより大きくできるため、電荷の取り出し効率がさらに向上し、より高性能なペロブスカイト太陽電池の実現が期待できる。
同研究グループは今回、複数個のアンカー基を導入できるπ共役骨格として、ベンゼン環に3つのインドール骨格が縮環した平面構造を有する、トリアザトリキセン骨格(TAT)に着目した。アンカーとしてアルキルホスホン酸基(PA)を3つ導入した三脚型の「3PATAT-C3」を設計し、合成している。
また、比較化合物として、アンカー基を1つ導入した一脚型の「1PATAT-C3」や2つ導入した二脚型の「2PATAT-C3」も合成した。
合成したPATAT誘導体のDMF溶液を金属酸化物(ITO)上にスピンコートで塗布成膜し、PATAT誘導体の薄膜を形成した。
水の接触角度を測定したところ、何も塗布していないITO基板の接触角が8度であったのに対して、PATATを塗布した基板の接触角は、アンカー基の数に関わらずいずれもおよそ75度となった。ITO基板表面が疎水的に改質され、PATAT分子のホスホン酸基が基板に吸着していることが示唆される。
また、3PATAT-C3の粉末と金属酸化物に吸着した膜に対して赤外線反射吸収分光測定を実施した。粉末状態に比べて、吸着膜ではP–O–H伸縮振動に対応するピーク(1157、1146および945cm–1)やP=O伸縮振動に対応するピーク(1234cm–1)の比が大きく減少。3PATAT-C3のホスホン酸アンカー基は、ほぼ全てが金属酸化物表面に二座の様式で化学吸着していることが判明した。
次に、紫外光電子分光法(UPS)および準安定原子電子分光法(MAES)を用いることで、基板上での分子の配向様式を調べた。
サンプルの最表面のみの電子情報が得られるMAESスペクトルでは、数nm程度の膜自体の電子情報が得られるUPSスペクトルと比べて、3PATAT-C3のπ軌道に由来するピークが顕著に観測された。また、σ軌道に由来するピークの寄与が小さくなることも判明した。
この結果から、単分子膜では、三脚型3PATAT-C3分子が水平に配向していることが明らかになった。
さらに、PATAT分子を吸着させたITO基板を作用電極に用いて、サイクリックボルタンメトリー測定を実施した。3PATAT-C3(三脚型)の吸着量(1.0×1013分子/cm-2)が1PATAT-C3(一脚型)(6.6×1012分子/cm–2)および2PATAT-C3(二脚型)(5.7×1012分子/cm-2)より多く、基板上により密に吸着していることが判明した。
実際に、一連のPATAT単分子膜を正孔回収層として用いてペロブスカイト太陽電池デバイスを作製して特性を評価したところ、いずれの場合も光電変換効率が21%以上となった。特に、水平配向の3PATAT-C3を用いたデバイスは、最高で23%の効率を示した。
作製した太陽電池は、耐久性にも優れる。不活性ガス雰囲気下で保管したデバイスは、2000時間後でも初期とほぼ同等の特性を保持した。また、連続光照射条件下では、100時間後でも95%の特性を保持している。
今後は、今回の研究結果を京都大学発のベンチャー「エネコートテクノロジーズ」にも技術移転し、高性能のペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた研究開発を進める計画となっている。
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多脚型分子PATATの開発:単分子層でペロブスカイト太陽電池を高性能化―23%の光電変換効率と高耐久性を達成― | 京都大学