量子コンピューターへの応用が期待できる超電導インクの開発

米プリンストン大学とラトガース大学、ドイツのレーゲンスブルク大学の共同研究チームが、二硫化タングステンの単分子層を含むインクを製造できる化学剥離技術を開発した。量子コンピューターの内部に印刷できる超伝導インクとしての応用が期待できる。

同研究成果は2023年3月22日、「Science Advances」誌に掲載された。

研究チームは、二硫化タングステンとカリウムからなる層状化合物を硫酸水溶液に浸透させ、超音波処理によりカリウムを脱離させ、二硫化タングステン単分子膜の分散した懸濁液を作製した。その後、残留物を洗い流すことで、構造欠陥の少ない数十マイクロメートルサイズの二硫化タングステン単分子膜を含むインクの製造に成功した。同製造法はシンプルであるため、工業化も容易であるという。

同インクを塗布した薄膜は、室温で金属的であり、30日間保護膜なしに安定性を保持した。さらに、一定期間大気下にさらした後でも7.3 Kまで冷却されると、超電導状態になることが分かった。つまり、特別な装置を使わずにインクを持ち運べ、印刷後、所定の温度まで冷却すれば、超電導体として使用できるのだ。

さらに、同インクは、水以外にもエタノールやイソプロパノールなどのさまざまな溶媒に適用可能だ。そして、シリコンウエハーやホウケイ酸ガラス、ITO透明電極などの基板、あるいは、プラスチックやエラストマーなどの柔軟基板上に、導電膜を形成できる。

今後、研究チームは、同様の製造法を用いて、より高温で超電導になる方法を検証する予定だ。また、量子コンピューターの超電導回路作製用としてだけでなく、さまざまな集積回路やフレキシブルデバイスなどの導電材料として、同インクの使用を検討している。

関連情報

Using chemical exfoliation to produce superconducting tungsten disulfide ink
Synthesis of an aqueous, air-stable, superconducting 1T′-WS2 monolayer ink | Science Advances

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