石炭をサステナブルに使う――廃坑内の石炭を使った水素貯蔵可能性の研究

Credit: Penn State . All Rights Reserved.

ペンシルベニア州立大学(Penn State)の研究チームが、廃坑になった炭抗における石炭層に、大量の水素を貯蔵すると同時に、必要に応じてポンプによって取り出すことができる可能性について論文発表した。米国内の炭田から産出される8種類の石炭について、水素の収着や吸着、拡散に関する特性を解析し、十分な水素貯蔵とポンプ吐出の可能性を確認したものである。クリーンな水素エネルギーのサプライチェーンを展開する上で、障害となる大規模貯蔵の課題を解決し、経済性と効率性の高い水素社会を実現できると期待している。研究成果が、2023年3月15日の『Applied Energy』誌に論文公開されている。

化石燃料に対する依存性を克服できるクリーンなエネルギー源として、水素を最大限に活用する水素社会の構築が追求されている。だが、水素エネルギーのインフラを構築する上で、経済性と信頼性を確保するにはさまざまな問題がある。輸送や発電、製造などエネルギー集約型の産業分野に向けて水素を活用する場合、どのように大量の水素を貯蔵するか、またエネルギー需要が日常的に変動する中で、どのように需要のピークと谷に対応するかは大きな課題だ。

研究チームは、一般的な水素貯蔵方法はコストが高く効率が悪いと考え、経済性を高めるために、廃坑になった炭抗インフラを利用して、シェールガスの貯留層にように、製造された水素ガスを石炭層に注入貯蔵する可能性を検討した。アメリカ国内の炭田から産出される8種類の石炭について、水素の収着と拡散特性、水素保持能力を独自開発の手法により解析した。

その結果、8種類とも顕著な収着特性を示すが、バージニア東部の低揮発性瀝青炭およびペンシルベニア東部の無煙炭が最も優れた結果を示した。前者は1.17mmol/gの最大吸着容量を示し、後者は0.95mmol/gと二番目に優れた結果を示した。水素ガスの注入および吐出速度を高めるために必要な拡散特性は、10.07MPaにおいて9.26×10-4L/s以上であり、メタンの4倍以上であった。

「石炭には水素を貯蔵できる細孔が多数あり、大量の水素貯蔵システム、いわば“水素電池”として適している」と、研究チームは説明する。「多くの廃坑の中で、メタンが石炭層に吸着している炭層メタン貯留層が、枯渇して廃坑になったものが最も優れた候補」と語る。これらの炭層はメタンなどの非在来型天然ガスを含み、過去数十年に渡り重要な化石燃料源になってきた。水素を注入すると石炭に付着するが、この地層の最表層にはシェール(頁岩)などの層が形成されており、水素を封印する役割を果たす一方、必要な時にはポンプで取り出すことができる。

研究チームは、旧炭鉱地域に大規模な水素貯蔵インフラを展開することによって、エネルギー転換の時代に、経済的に打撃を受ける地域に新しい経済チャンスが生まれ、またアメリカの水素社会構築に貢献できる、と考えている。専門性の高いエネルギー技術者や研究環境を持ち、地域に根差すPenn Stateとして、実用化を目指す研究を推進する予定と語る。

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