CO2ネットゼロに向けて――サステナブルな酢酸生成プロセスを開発

ノースウェスタン大学の研究チームが、捕捉した二酸化炭素(CO2)から一酸化炭素(CO)を経由して、選択的に酢酸を製造する手法を考案した。電解還元に用いる従来の触媒では、さまざまな化学品が同時に生成されてしまうため、特定の化学品を分離して高純度化することが難しかったが、触媒組成および圧力条件の適正化により、酢酸を選択的かつ電気エネルギー的に高い効率で得ることに成功した。酢酸製造における脱炭素化を推進できるとともに、下流工程における化学品分離精製プロセスの負荷低減に繋がると期待している。研究成果が、2023年5月3日の『Nature』誌に公開されている。

大気中に放出されるCO2を捕捉して固定貯蔵する、または有益な副産物製品に転換する技術開発は、2050年までにCO2ネットゼロ化を目指す、アメリカの超党派によるインフラ投資・雇用法に定められた国家的優先課題である。研究チームは「捕捉したCO2の副産物への転換は、技術的にはすでに可能だが、経済性を考慮すると未だ不充分と言える。市場性の高い製品に転換するため、電気化学手法を用いて経済性を改善する、新しい手法の考案が必要」と考えた。

そして、電解還元によってCO2を主要な産業用化学製品に転換する研究を行うとともに、市場性の高い副産物として、塗料やコーティング、接着剤などの中間原料として大量に生産される酢酸に注目した。産業用酢酸は、主として化石燃料から製造されるメタノールから生成されるが、酢酸1kgの生成過程で1.6kgのCO2が放出されることが示されている。

研究チームは2ステップのプロセスを採用し、第一電解槽において捕捉CO2から水と電子を用いた還元反応によりCOを生成する。次に第二電解槽において触媒を用い、COを2つ以上のC原子を含む様々な分子に変換する。但し「電解還元における大きな問題は選択性にある。第二電解槽で用いられる従来の触媒は、同時に多数の反応を起こすので様々な化学品混合物が生成され、その中から特定の化学品を分離して高純度化することが非常に難しい」と語る。

同大学の原子ナノスケール解析センターにおける、原子および電子レベルのその場観察機能を駆使して解析した結果、従来の触媒金属に対して銅の割合を非常に低くする(約1%)ことによって、他の多くの化学品の中で酢酸の生成だけが優先されることを突き止めた。また、反応圧力を10気圧まで高めることによって、ファラデー効率を91%まで向上できることを確認した。「従来の電解還元におけるファラデー効率は70%~80%程度であり、この結果は極めて高い」と説明する。更に、ファラデー効率は時間とともに劣化する傾向があるが、新しい触媒は820時間の反応後も85%の高いレベルを維持している。

「開発手法はこの分野における常識に反するところもあるが、生成副産物の高い選択性および高い電気エネルギー効率を達成できたことは、酢酸以外の有益な副産物への転換の道を拓くとともに、化学産業の脱炭素化に貢献できる」と期待している。

関連情報

New catalyst transforms carbon dioxide into sustainable byproduct – Northwestern Now

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