- 2023-6-22
- 化学・素材系, 技術ニュース
- VF, インド工科大学, ペクレ数, ミシブル攻法, 二液体界面領域, 数値シミュレーション, 数理モデル, 有効界面張力, 東京農工大学, 流体力学的不安定性, 研究, 粘性フィンガリング, 非ニュートン性
東京農工大学は2023年6月21日、同大学大学院とインド工科大学ローパー校の共同研究チームが、「流動の速度が増すと界面の流体力学的不安定性が増加する(指幅が小さくなる)」という従来の常識を覆す結果を得て、そのメカニズムを明らかにしたと発表した。この結果は、有効界面張力と流動の速度により、界面の流体力学的不安定性を制御できることを示唆している。
多孔質媒質内で粘性の高い流体が粘性の低い流体に押しのけられるとき、二流体の界面が指のようなパターンを形成する現象は、粘性フィンガリング(VF)と呼ばれ、研究されている。通説では、二流体が混和であるか、非混和であるかで特性が大別される。
非混和系では二流体間の界面張力が、混和系では二流体間の拡散が、界面の流体力学的不安定性を減少させ、指幅を大きくするように作用する。また、両方の系で、流動の速度が大きくなると界面の流体力学的不安定性が増加し、指幅が小さくなる。しかし、混和である二液体界面領域で、混和過程が遅い場合には、界面張力のような力が作用することが提唱されており、これは有効界面張力と呼ばれている。
VFに及ぼす有効界面張力の影響について、有効界面張力は、非混和系の界面張力と同様に指幅を大きくするよう作用する。研究チームでは、二液体の粘度差は同じだが、有効界面張力だけが異なる混和溶液系の構築に成功している。
この研究では、これまでのVFの常識を覆す、有効界面張力を伴うVFでは、流動の速度が大きくなると指幅が大きくなるという結果を得ている。このメカニズムの完全解明には、溶液の非ニュートン性を考慮しない有効界面張力を伴うVFの数理モデルによる数値シミュレーションにより、流動の速度が大きくなると指幅が大きくなる、という実験結果を再現できるかが課題となっていた。
研究チームは、有効界面張力の大きさと流動の速度を表す無次元数であるペクレ数(Pe)を変化させ、数値をシミュレーションした。数値シミュレーションには、溶液の非ニュートン性を考慮しない有効界面張力を伴うVFの流速の影響を調べることができる数理モデルを用いている。
その結果、これまでの報告と同じく、有効界面張力が小さい場合はペクレ数の増加に対して指幅は小さくなった。しかし、有効界面張力が大きい場合、ペクレ数が小さい範囲で指幅はペクレ数の増加に対して小さく、ペクレ数が大きい範囲で指幅はペクレ数の増加に対して大きくなっていくことを示した。
また、ペクレ数が大きくなると二液体の界面近傍の濃度勾配が急峻となり、濃度勾配の2乗に比例する有効界面張力の大きさが大きくなることで、非混和系で界面張力が指幅を大きくさせるかのごとく、指幅が大きくなる、というメカニズムを明らかにした。
今回の成果は今後、有効界面張力を伴うVFの制御手法に関する実験的、数値的、理論的研究の先駆けになる。また、CO2貯留や原油増進回収におけるミシブル攻法での重要な発見となる。同研究はそれらのプロセスの新たな制御法の創出への寄与が期待される。