潜熱を利用した熱エネルギー貯蔵デバイスの設計を可能にする指針を確立

Image: Courtesy of Dr. Patrick Shamberger

テキサスA&M大学の研究チームが、材料の相変態に伴う潜熱を利用した相変化材料(PCM)蓄熱デバイスにおいて、放熱吸熱速度および熱エネルギー貯蔵容量を最適化する基本的設計指針を確立した。蓄熱デバイスの過熱防止や蓄熱容量最大化を可能にする、PCMと高熱伝導性金属を組み合わせた複合材料における最適複合比率などを明らかにしたもので、膨大な流体力学計算や煩雑な繰返し設計なしに、PCM複合材料の最適設計が可能になると期待される。研究成果が、『International Journal of Heat and Mass Transfer』誌の2023年7月号に公開されている。

物質が固体から液体に状態変化する際(例えば氷から水に)、外部から熱が吸収され、また逆に液体から固体に変化する際には熱が放出される。吸収または放熱される熱量は「潜熱」と呼ばれるが、PCMは潜熱を利用することにより、熱エネルギーの貯蔵放出や様々な温度の保持管理を可能にする。

PCMは、宇宙遊泳中の飛行士を快適に保つ簡便な温度保持のために、NASAによって開発されたが、コンパクトな蓄熱デバイスや熱交換器、電子製品や精密機器の熱管理や梱包輸送中の結露防止などに利用されている。身近な応用としては、宅配ボックスの保冷材や高熱作業、熱中症対策としてのクールベストにも用いられている。

PCM用材料としては有機系や無機系などさまざまな材料が実用化されているが、一般に熱伝導性に劣るものが多く、内部潜熱が外部に伝わりにくく過熱し易いという問題がある。そのため、高熱伝導性の金属と複合化する蓄熱デバイスが開発されている。ところが、こうしたPCM-金属の蓄熱複合材料デバイスにおいて、放熱吸熱速度および熱エネルギー貯蔵容量を最適化する設計手法が確立されていないのが現状である。

そこで研究チームは、円筒状のPCM-金属の蓄熱複合材料デバイスにおいて、3つの性能指標「過熱を生じる温度上昇の最小化」「体積あたり熱容量の最大化」「質量あたり熱容量の最大化」を最適化する指針を理論的に構築することにチャレンジした。同時に、PCM としてオクタデカン有機化合物を用い、3Dプリンティングにより、AlSi12合金と複合化した蓄熱デバイスを作成して実験的に検証した。

その結果、最適なAlSi12合金の複合比率は、デバイスの温度上昇を最小化する場合には0.5〜0.7、体積熱容量を最大化する場合には0.3〜0.5、質量熱容量を最大化する場合には0.2〜0.3であることを確認した。このような指針により、デバイスの体積や質量を増加させることなく、放熱吸熱速度および熱エネルギー貯蔵容量を最適化できることを示した。また、熱容量に及ぼすAlSi12合金との複合化の効果は大きく、複合化しない場合に比べて約10倍に向上していることも判った。

こうして得られた蓄熱複合材料デバイスの設計指針は、他の複合系にも活用できる。膨大な流体力学計算や煩雑な繰り返し設計なしに、各々の用途における熱負荷条件に応じて、最適な蓄熱デバイスを容易に計算し設計できると、研究チームは期待している。

関連情報

Discovery unlocks thermal energy storage optimization | Texas A&M University Engineering

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