- 2023-8-8
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フリューは1997年にオムロン社内の新規事業としてスタートした、プリントシール機メーカーの最大手だ。2007年にMBO(マネジメントバイアウト)により「フリュー株式会社」として独立し、最後発ながら、業界のトップシェアを獲得するまでに至った(2022年夏フリュー調べ)。現在ではWEB・アプリサービス、アミューズメント景品やゲーム・アニメなどの事業も展開している。プリントシール機事業は、中高生を中心とした若い世代の女性をターゲットとする、ガールズトレンドビジネスの一環であり、ユーザーの価値観に寄り添うマーケティング力と提案力、そして的確にニーズに応える技術力で大きな成長を遂げてきた。
同社のプリントシール機事業部ハードウエア開発部でリーダーを務める山本遼平氏に、エンターテインメント業界ならではのものづくりの面白さや、エンジニアとしてのキャリアについて話を伺った。(執筆:畑邊康浩、撮影:編集部)
――最初に、御社のプリントシール機事業についてご紹介いただけますか。
[山本氏]私が携わっているプリントシール機事業はフリューの創業事業で、柱の1つとなっている事業です。1997年の創業当時は、世間でプリントシールが大ブームだったことと、オムロンが得意としていた顔認識技術などを生かせる領域ということで参入しましたが、今や当社のプリントシール機は業界のトップシェアを誇るようになりました。
プリントシール機の歴史は古く、若い世代の女性の価値観の変化と共に、ハードウェアとソフトウェアの技術も進化してきました。当社は新しい技術を生かしながら、変化するお客様のニーズに合わせて、常に新しいテーマや機能を備えたプリントシール機を開発してきました。
例えば、今は「盛れる」という言葉でよく表現されるように、お客様は「別人になりたい」というよりは、「一番自分らしくかわいくなりたい」という価値観を大切にされているため、「いかに盛れるか」、「かわいい自分をプリントシールに残せるか」という点がプリントシール機に求められています。また、プリントシール機は何かのイベントの記念として友だちや家族と撮って楽しんだり、あるいは、日常の遊びの文化として、幅広い世代に受け入れられています。
――若い世代の女性を中心に、一つの遊びの文化として受け入れられているのですね。御社のプリントシール機の強みは、どのような点にあるのでしょうか?
[山本氏]プリントシール機の開発は、発売の1年~1年半前から始まるため、今現在で流行っているものを取り入れているのでは、未来のニーズには応えられません。時代によって異なるお客様の思いやニーズを先回りして捉え、それに寄り添った提案ができるマーケティング力と提案力、そして、企画を叶えるための確かな技術力、これが当社の強みだと思っています。
企画部門ではユーザーインタビューも頻繁に実施していて、商品を実際に体験してもらい、当社の提案の方向性が間違っていないかを確認しています。我々エンジニアは企画部門と連携をとりながら、テストの結果を基に細かいPDCAを回して、お客様に「こんなプリントシール機が欲しかった」と思ってもらえるよう、製品開発に反映していくことが役割となっています。
常に新しいものをつくり出す仕事がしたかった
――次に、山本さんご自身について伺います。学生時代の専門と、エンジニアを目指した理由を教えていただけますか。
[山本氏]大学時代はロボティクス学科に在籍していました。ロボットをつくる研究室に所属しましたが、そこは機械系、電気系、ソフト系など、色々な専門分野の人が集まった“ごった煮”のようなところで、みんなで協力して1つのロボットを作っていました。私は修士課程に進んだので、トータルで約3年半、研究にどっぷり浸かった生活を送りました。
私は昔からプラモデルなど、何かものをつくることが好きでずっと続けていたので、好きなことを仕事にするならエンジニアかな、と考えていました。ただ、「同じものをつくり続けるのは退屈だろう」とも思っていたのです。そこで、常に新しいものを求めるユーザーに応えるアミューズメント業界なら、常に新しいものをつくり出す仕事ができるのではないかと思い、エンターテインメントの領域に絞って仕事を探しました。
フリューを就職先として選んだ理由は、企画やマーケティング、開発、生産、営業など、色々な職種のメンバーと関わりあいながら仕事ができるからです。「なぜこの製品をつくるのか」、「誰のためにつくっているのか」など、ものづくりの全体像を知った上で、エンジニアとしてそれを実現したいと思っていたのです。
分野の垣根なく、商品開発のためにできることは何でもやる
――山本さんが所属しているハードウエア開発部の役割について教えていただけますか。
[山本氏]2015年にフリューへ新卒で入社してから、ずっとハードウエア開発部に在籍しています。ハードウエア開発部は、プリントシール機のブースを含めた筐体全体のフレームや、搭載するカメラやモニターといった電子デバイスの開発と調達の役割を担う部署で、機械系と電気系エンジニアが20名ほどと、調達管理系のスタッフが7名ほど在籍しています。製品開発のスパンとしては、年間で新筐体を3機種ほどリリースしているほか、既存機種のバージョンアップも行っています。
――プリントシール機は画像処理などの機能も必要になると思いますが、ソフトウェアの開発は別の部署が担当されるのですか?
[山本氏]画像処理など、ソフトウェアの開発は別に専門の部署があります。ただ、筐体に使うPC本体やCPU、メモリ、グラフィックボードなどの評価、選定、調達はハードウエア開発部が担当していますので、ハードとソフトの部署が明確に分かれているというよりは、お互いに連携しながら仕事を進めています。
プリントシール機は3つのメインユニットとサブユニットで構成
――これまで山本さんはどのような仕事を担当されてきたのでしょうか?
[山本氏]プリントシール機は大きく、メインユニットとサブユニットに分かれるのですが、最初はサイズの小さいサブユニットの設計から業務が始まり、経験を積みながら徐々に大きなメインユニットの設計を担当するようになりました。ここ3年くらいは、担当するメインユニットの設計業務に加えて、ハードウェアの開発全般を管理するリーダーとしての業務や、新人育成にも携わっています。
――メインユニット、サブユニットについて、もう少し詳しく教えてください。
[山本氏]まず、サブユニットはユニット単体で設計が完結するものになります。ネットワークに接続するためのアンテナやルーターなどを搭載した「通信ユニット」、ストロボなどの照明機材を積んだ「照明ユニット」、お客様が撮影前にコースなどを選ぶための「事前ユニット」など、それぞれ機能が集約されたものです。
一方のメインユニットは、プリントシール機の筐体を構成する落書き・撮影・背景の3つのユニットを指します。設計では多くの技術知識を要求されるものであり、大きいものでは人の身長より高くなります。3つのユニットを簡単に説明しますと、撮影ユニットは、撮影ブースに入ったお客様の正面にある、カメラやミラーなどを備えたユニットです。サブユニットで紹介した事前ユニットはここに付随します。
背景ユニットは、撮影ブースに入ったお客様の後ろ側にくるユニットです。最近の機種では、お客様が指定した色のカーテンが降りてくる機能が搭載されている場合もありますが、機種によっては電装品がないものもあります。
落書きユニットは、撮影後に画像をモニターに表示して、お客様がタッチペンでレタッチや文字装飾などをするユニットです。落書きをするためのブースであると同時に、内部には筐体の頭脳に当たるPCやプリンターを備えていて、最後にシールを排出するのもこのユニットの役割になります。
企画段階から工場での組み立て作業まで意識して、製品開発を進める
――プリントシール機の開発の流れはどのように進むのでしょうか。
[山本氏]プリントシール機開発で大切なのは、今のニーズを叶えるのではなく、将来のニーズに応えられる機種を提案することです。当社の場合、商品開発は発売の1年~1年半前にスタートします。まずは最新の市場動向やユーザーのニーズを調査した上で、企画部門が「1年半後のニーズ」を想定し、お客様に受け入れられるにはどのようにすればよいか検討しながら、コンセプトや機能を煮詰めていきます。それを実際の商品へ落とし込んでいくにはどういった実現手段があるのかを、ハードウエア開発部やプロダクトデザイナーが協力しながら、徐々に形にしていきます。
当社の場合、ウォーターフォール型の開発ではないので、開発部門からも企画案に対して「ここはこうした方がいい」というような改善提案をしているのが特徴です。冒頭で「色々な職種のメンバーと関わりあいながら仕事ができる」と申し上げましたが、こうした企画に関わる動きもできて、多くの人が協力してフィードバックと検討を繰り返しながら、チームで徐々に良い製品に仕上げていくのは、とてもやりがいがあります。
――これまで担当された機種の中で苦労したことはありますか?
[山本氏]一番苦労したのは、2019年2月にリリースした『#アオハル』という機種です。この時は一人のメンバーとしてメインユニットの設計に関わりました。『#アオハル』の一番のセールスポイントに「アオハル FREE カメラ」という機能がありました。これは、カメラの高さや向き、角度をお客様の好みの位置に動かせるというもので、私はその機能のメイン担当として関わりました。
カメラを動かせる機種は以前にもあったので、基本的にはその機種の設計思想を踏襲しました。ただ、カメラの可動域が1200mm程に増えて、アングルの上下、回転など3段階の可動ができるようになり、埋め込みたい部品も増えたため、過去のものをそのまま流用するわけにいかず、設計はかなり苦労しました。
でも、苦労の甲斐あってか『#アオハル』は若い世代を中心としたお客様に受け入れられて、SNSなどで「カメラが動くプリヤバい!」などのコメントとともに広まり、「アオハル」が若い方の間でトレンドワードにもなったほどでした。
――プリントシール機の開発で必要となるスキルや知識は、どのようなものがありますか?
[山本氏]機械系については、まず、筐体のフレームを支える板金設計の知識が軸になりますね。他にも樹脂成形や切削品などの知識も求められます。『#アオハル』のカメラのようなものを我々は「動き物」と呼んでいますが、こうした駆動系の機械部品に対する知識も必要です。
電気系では、筐体や搭載される様々な部品を動かすための回路を、パートナー企業様と一緒に製作することになりますので、電気回路の知識や交渉力が必要になります。また、ユニットに搭載するカメラや、モニターなどのデバイスは外部から調達することが多いので、筐体にそのまま搭載できるのか、それとも当社向けにカスタマイズいただく必要があるのかなど、仕様とデバイスのスペックを見て判断するスキルが求められます。スペックが足りなければ使えませんし、オーバースペックであればコスト要件を満たせなくなってしまいます。
プリントシール機の開発ではQCD(品質:Quality、コスト:Cost、納期:Deliveryの頭文字)のバランスが求められるので、機械系・電気系に関わらず、幅広い知識が必要になります。
――開発に関わるエンジニアには、多様な知識が要求されるのですね。御社では、エンジニア個人がやりたい仕事を選べるのでしょうか?
[山本氏]準備された選択肢の中から選ぶことはできます。勿論、その時々の組織の状況にもよりますが、「こういう技術、業務領域にチャレンジしたい」という意欲がある人には、上長がその道を準備してくれたりもします。
会社としては、個人も会社も成長できる“社員のありたい姿を実現する価値観”として「動的ビジョン」という考えを大切にしています。個人の「やりたいこと」「できること」と「会社からの期待」、その3つが重なる部分が、モチベーション高く自分も会社も成長できるという考えです。年に1度実施される「動的ビジョンWeek」の期間で、自分の動的ビジョンを描き、上司との1on1や仲間との対話を行っています。
また、プリントシール機事業部独自の取り組みではありますが、「事業部内インターン」というプログラムもあります。同じ事業部の他部門で1週間インターンをして、異なる専門分野を学ぶことができるのです。実は、私ももうすぐソフトウエアの部署で業務を経験させてもらう予定です。このようなキャリアの幅を広げたり、方向性を示したりできる制度があるのは、エンジニアにとっても成長の良い機会になりますね。
色々なものに携わり、自分の知識の「引き出し」が増えていくのが楽しい
――山本さんのエンジニアとしての強みはどういった点になりますか?
[山本氏]設計の速さや深さを、その時々の条件や要求に合わせて柔軟に変えられることが、私の強みだと思っています。
ハードウエア開発部で行うのは構想設計の領域の中で、デバイスを搭載する位置を決めるレイアウト設計が主軸です。その後は詳細設計が必要になりますが、そこはパートナー企業様と協力して進めていく形をとっています。
私個人は、構想設計だけでなく詳細設計まで関わる機会を多くいただけたので、全ての設計工程をイメージしながら業務を進めることができますが、一人で全て対応するのは、時間も手間もかかります。そこで、納期や設計の要求水準に応じて、必要であればチームのメンバーに部分的に任せ、時間的な余裕があれば自分で深く考えた設計をやり遂げる、その辺りをバランスよく差配できることが私の強みだと思っています。昔と変わらず、ものづくりが大好きなので、時間さえ許せば全部自分でやりたいんですけれども(笑)。
――エンジニアという職業の楽しさややりがい、醍醐味について教えてください。
[山本氏]そうですね、プリントシール機の開発は色々なものに携わる機会が多いので、自分の中に技術や知識の「引き出し」が増えていくのが楽しいです。
例えば、ずっと前にメーカーの担当者に聞いたことが目の前の課題を解決する糸口になったり、ある知識が全く異なる分野に生かせたり。展示会で見たことがある部品が、今の商品に使えることに気付いて、商品のクオリティを上げることにつながったこともありました。このように、増えた「引き出し」が製品開発に活かせると、さらに仕事が面白くなります。
私は自分が開発しているものが、誰の、どのような要望で作っているのか、自分が作ったものが後の工程でどのように組み上げられ、最終的に誰にどんなふうに使われるのか、そういう全体を把握して開発に携わりたいです。そんな私にとって、ものづくりの上流から下流まで、幅広い技術と業務領域、そして人と関わりながらものづくりができるフリューは、とてもやりがいのある職場です。
人に喜ばれるもの、人の記憶に残るものをつくりたい
――今後の目標や、挑戦してみたいことがあれば教えてください。
[山本氏]今は一人の機械系エンジニアですが、知識と技術を高め、最終的には独力で製品開発を完結できるようになりたいと思っています。
エンジニアの道を選んだ時、「この商品は自分が世界で一番詳しい」と言えるようなものを世の中に出したいという気持ちがありました。それを実現するには、自分の知識と技術の幅を広げ、高めていかなければなりません。
大学にいた時の周りの先輩たちは、機械系とか電気系、あるいは特定の分野の技術にこだわるわけでなく、垣根なく何でもやる人たちだったので、私もそれがエンジニアとしての自然な姿だと思っていました。社会に出てみると、思いのほか専門分野が細かく分かれていることに気付きましたが、専門分野に縛られず、どんな分野も対応できる方が楽しいですし、そうなれたらと思っています。
――フリューのエンジニアとして、今後どのような商品を世の中に送り出したいですか?
[山本氏]やはり、「人に喜ばれるもの」、「人の記憶に残るもの」をつくりたいです。これまで通り「盛れる」「遊び」「記念」を大切に、ユーザー様に寄り添いながらプリントシール機の開発に取り組むと共に、“体験価値”にもより一層重きを置いたチャレンジをしていきたいです。
まだ具体的に取り入れているわけではありませんが、個人的にはVRやARの技術にも興味を持っています。バーチャル空間の中に浮かぶディスプレイで撮影するコースを選べたり、自分の「推し」の3Dモデルと一緒に撮影したりできたら面白そうですよね。
私はフリューに入社して、色々なことを勉強させてもらって、技術や知識、経験を蓄積してきました。次は、自分以外のメンバーにも同じような経験をしてもらいたいですし、チームとして成果が出せる組織をつくっていきたいと思っています。
取材協力
ライタープロフィール
畑邊 康浩
編集者・ライター。語学系出版社で就職・転職ガイドブックの編集に携わった後、人材サービス会社で転職情報サイトの編集に従事。2016年1月からフリーランス。主にHR・人材採用、テクノロジー関連の媒体で仕事をしている。