廃プラスチックをアップサイクルして石鹸を作る

Credit: Steven Mackay for Virginia Tech.

プラスチックごみが問題となる中、廃プラスチックを価値のある化合物の原料として利用することは魅力的だ。バージニア工科大学の研究チームは、プラスチックから石鹸を作る手法を開発した。プラスチックを界面活性剤として知られる化合物にアップサイクルすることに成功したもので、研究成果は『Science』誌に2023年8月10日付で公開されている。

一見すると、プラスチックと石鹸には共通点がないように思えるかもしれない。しかし分子レベルで見ると、両者には化学的な類似性がある。現在、世界で最も使用されているプラスチックの一つであるポリエチレンの化学構造は、石鹸の前駆体である脂肪酸の化学構造と非常に似ている。

研究チームのGuoliang Liu教授は、以前から両者の構造類似性を理由に、ポリエチレンを脂肪酸に変換し、最終的に石鹸を製造することができると考えていた。課題は、脂肪酸よりはるかに鎖長の長いポリエチレンを、いかにちょうど良い長さに分解するかということだった。

そこで研究チームは、小型のオーブンのようなリアクターを作成し、「温度勾配熱分解(temperature-gradient thermolysis)」という技術でポリエチレンを加熱分解する手法を開発した。リアクターの下部はポリマー鎖を切断するために十分な高温になっており、上部はそれ以上の分解を止めるために低温になっている。

このリアクターのアイデアは、Liu教授が暖炉から立ち上る煙を見ている時にひらめいたという。薪はセルロースなどのポリマーを主成分としている。薪を燃やすとポリマーはどんどん短い鎖に分解される。小さな気体分子まで分解されると、酸化されて最終的に二酸化炭素になる。煙突には気体分子まで分解されなかった残渣が、煤(スス)として残る。これと同様に、ポリエチレンを加熱分解し、小さな気体分子にまで分解する前に反応を止めることで、短鎖の分解産物を得られるのではと考えた。

そして研究チームは、リアクターで熱分解して得られた分解産物に、鹸化(油脂を加熱し水酸化ナトリウムを加えて加水分解し、脂肪酸とグリセリンを得ること)を含むいくつかの工程を加えて、プラスチックから石鹸を作ることに、世界で初めて成功した。

この技術はポリエチレンだけでなくポリプロピレンにも適用できる。この2種類のプラスチックは日常的に利用されるプラスチックの多くを占めている。特筆すべきは、この2種類が混ざった状態で処理できるということだ。種類ごとに分別が必要な現在のプラスチックリサイクル法にはない、大きな利点となる。

さらに、このアップサイクル技術は非常に単純な手法であることも利点の一つだ。新規の触媒や複雑な工程は必要としない。脂肪酸や石鹸に変換するために追加の成分は必要であるものの、最初の反応に必要なのは熱のみと単純だ。このことは、費用対効果に貢献し、環境への影響も比較的小さい。

石鹸は高価な商品に見えないかもしれないが、重量比較でプラスチックよりも2〜3倍の価値がある。また石鹸とその関連製品の需要は、プラスチックの需要に匹敵するものだ。Liu教授は、今回の研究により、廃プラスチックを他の有用な材料の生産に利用することで、廃棄物を削減する新たな方法の礎を築いたと述べている。

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