電池不要のアクチュエーターも――光で分子構造が変わる「フォトクロミック結晶」を使った複合材料を開発

コロラド大学ボルダー校の研究チームが、光の照射によって分子構造が変化するフォトクロミック結晶を用いて、弾力性のある高分子複合材料を開発した。光照射するだけで電気や熱の介在なしに、迅速な機械的変形を100サイクル以上繰り返しても損傷なく発現できる。

これは、光エネルギーを機械的仕事に直接変換でき、熱機関や電池などを必要とせず、ワイヤレスで遠隔操作可能な革新的システムの可能性を示したもので、ロボットやドローン、航空宇宙、生物医学デバイスなど多様な産業に応用できると期待されている。研究成果が、2023年7月27日に『Nature Materials』誌に公開されている。

光照射によって分子構造が可逆的に変わるフォトクロミック結晶は、2つの状態間で吸収スペクトルが変化して色が変わるなど、調光材料や光記憶材料、ホログラム材料としての応用が期待され、活発に研究されている。

その分子構造の変化を機械的変形として取り出し、その動作をアクチュエータの動力として利用することも検討されているが、フォトクロミック結晶そのものは、光照射すると割れるなど、耐久性や柔軟性、成形性に乏しい問題があり、アクチュエータとして実用化するのが難しいとされていた。

研究チームは、このようなフォトクロミック結晶の問題点を克服するため、微細な空孔を持つスポンジ状の異方性ポリエチレンテレフタレート基板を利用して、その空孔中にフォトクロミック結晶の1つであるジアリールエテンの微細結晶をエピタキシャル成長させ、方向性を持って分散配列させたミクロ複合材料を作成した。

その結果、光照射時の耐久性や柔軟性および成形性が著しく向上すると同時に、光照射によって複合材料が変形することにより、物体を曲げたり持上げたりすることができ、アクチュエータのように作動することを見出した。さらに、大きな物体を動かすことが可能で、0.02mgの複合材料片が、1万倍の重量の20mgのナイロン製ボールを持ち上げられることを実証した。光照射に対する応答速度は高く、100サイクル以上繰返しても損傷なく機械的変形を発現できるとともに、フォトクロミック結晶単独の場合よりも大きな仕事量密度を発揮することもわかった。

開発された複合材料は、電気による従来のマイクロアクチュエーターを代替する可能性があり、ロボットやドローン、生物医学デバイスをワイヤレスで制御または駆動することができる、と研究チームは語る。光から仕事への変換効率を更に向上することにより、熱機関や電池などの扱いにくく重い機器を不要とするアクチュエータも実現できると期待している。現在、曲げ/曲げ戻しによって平坦形状から湾曲状態にしか変化しないが、研究チームは駆動制御を更に高度化することを目指している。現在、光エネルギー入力に対して、発生する機械的エネルギー出力を最大化する効率向上の研究を続けている。

関連情報

CU Boulder researchers develop arrays of tiny crystals that deliver efficient wireless energy | Chemical and Biological Engineering | University of Colorado Boulder

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