硝酸塩ベースの添加剤がカギ――安全なリチウム金属全固体電池を開発

ドイツのバイロイト大学の研究チームが、準固体型電解質の「その場重合」を促進する硝酸塩系添加剤を用いることにより、高いエネルギー密度と安定性を持ったリチウム金属電池を開発することに成功した。これまで添加剤として検討されてきた硝酸リチウム(LiNO3)に代わり、リチウム金属陽極におけるデンドライト(樹枝状に成長する結晶)析出成長を防止して安全性を高めるとともに、準固体型電解質1,3-ジオキソラン(DOL)のその場重合を促進して、イオン伝導度を高めて高エネルギー密度を確保できる。高度に安全で耐久性があるだけでなく、製造が容易なリチウム金属全固体電池の開発を可能にするものとして期待している。研究成果が、2023年8月16日に『Energy and Environmental Science』誌に論文公開されている。

スマートフォンからEVまで、リチウムイオン電池が幅広く活用されているが、EVの長距離走行を可能にするには、黒鉛負極を用いた現状のリチウムイオン電池よりもエネルギー密度を向上する必要がある。負極活物質としてLi金属を用いたリチウム金属電池の理論容量は、黒鉛電極の約10倍と極めて大きいものの、充放電サイクルに伴って負極に金属リチウムが樹枝状に析出するデンドライトが生じてセパレーターを破壊、短絡を起こして発火事故を起こしたり、有機系液体電解液が漏れたりなど、安全性の問題が障害になっている。

リチウム金属電池に、液体と固体を組み合わせたDOLなどの準固体型電解質を用いて電解液の漏れを防止するとともに、LiNO3などを添加して固体電解質界面(SEI)を形成することによりLiデンドライト成長を防止することが検討され、安全性が高い高性能リチウム金属電池の実現が期待されている。しかしながら、LiNO3はDOLとの適合性に劣り、DOLのその場重合を抑制してイオン伝導性の高い高効率電解質の生成を阻害するという問題があり、電池の製造やスケールアップが難しい。

研究チームはLiNO3に代わる添加剤として、トリエチレングリコールジニトラート(TEGDN)を用いることにより、DOLとの不適合性の問題を解決することに成功した。TEGDNはLiNO3と同様、Li金属負極表面にSEIを形成して、Liデンドライトの成長を防止できるとともに、DOLの重合を抑制することなく2.87mS/cmとイオン伝導度の高い高効率電解質を生成できることを明らかにした。

新しい添加剤の効果を確認するため、数種類のリチウム金属電池を試作し、コイン型Li/LiFePO4電池では1Cの充放電条件で2000サイクル以上の安定性を示すことを確認した。また、資源的に豊富で安価な硫黄(S)を正極に用いることからコスト効率が高く、高エネルギー密度のリチウム金属電池として期待されるリチウム硫黄(Li-S)電池について、305Wh/kgの高エネルギー密度を持ち50サイクル後も79.9%の容量を維持する、容量1.7Ahの小型電池を作成できることも実証した。研究チームは、「準固体電解質を用いたリチウム金属全固体電池は、液体電池に使われる既存の手法を用いて製造でき、分子構造設計を駆使した新しい添加剤により実現性が大きく進展した」と語る。

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New lithium battery with simple production and high safety developed

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