高い接着性と平滑度を両立する、フッ素樹脂の新しい表面改質手法を開発 産総研

産業技術総合研究所(産総研)製造技術研究部門 研究グループ長の中島智彦氏らは2023年9月28日、難接着性フッ素樹脂の表面を粗化することなく、接着性の高い状態に表面改質する新しい手法を発表した。大気環境下で簡便に実施できる。

次世代通信(ポスト5G、6G)回路基板は、伝送損失を低く抑えるため、平滑な界面で、誘電損失の小さい基板と電気抵抗の小さい回路を接着する必要がある。フッ素樹脂は、この誘電損失が最も小さい材料の一つで、次世代通信回路基板としての利用が期待されている。

しかし、モノをはじく性質が強いフッ素樹脂は、異なる材料との接着が難しい。また、従来のフッ素樹脂の接着では、劇薬である金属Naによる処理で表面が改質されるが、深さ100nm以上に表面を粗化することや、樹脂の変質が問題となっており、平滑性を損なわずに接着性を高める表面改質技術が求められていた。

開発した技術は、大気中でも安定な金属有機酸塩の有機溶媒溶液を使用しており、フッ素樹脂表面にこの溶液を塗布乾燥し、有機金属膜を形成する。その後、紫外光を照射し、膜中の有機金属成分の反応を促して、ナノサイズのコーティング膜を形成するが、このコーティング膜は、改質したフッ素樹脂と強固に結合する。

開発した技術の表面改質効果は、PFA樹脂に対し、金属イオンとしてNi2+ を選択した場合、多種の接着剤に対して7N/cmを超える高い接合強度を示す。また、フッ素樹脂表面のナノコーティングによる高接着性が実現している。接着面の元素分析では、接合が強くなることを明らかにした。

(左)本表面処理(金属イオンにNi2+ を使用した場合)によるPFA樹脂の接着剤に対する剥離強度変化。(中央)90°剥離試験の様子。(右)本表面処理における光化学反応モデル

金属イオン種の選び方により、ナノコーティング膜が水溶性になることから、表面を接合前に水で洗浄し、ナノコーティング膜を溶解除去してフッ素樹脂改質面を露出させ、直接接合できる。従来のフッ素樹脂の表面処理では、改質効果の寿命が短い傾向があったが、開発した技術を活用すると、表面改質と同時にナノコーティング膜も形成され、表面改質効果の長寿命化も期待できる。

改質前のPFA樹脂は、表面ラフネス値(Ra値、3×3μm範囲)で6nm程度の高い平滑性を持つが、Ni2+ を用いた表面修飾後のRa値は8nm程度と、改質前と同程度の平滑性を示す。また、水溶性を付与したコーティング膜を洗浄除去することで露出させたフッ素樹脂面も、Ra値で10nm程度の平滑度を示した。開発した手法は、大幅にフッ素樹脂へのダメージを抑制することに加え、平滑度の劣化を従来の10分の1以下としている。

本表面処理によるPFA樹脂の表面粗さの変化

開発したフッ素樹脂の表面修飾技術は、これまでの金属Na処理では適用できなかった用途への展開が期待される。また、溶液塗布と紫外光照射の領域を必要な箇所に限定できるため、環境負荷の抑制も期待できる。今後、複雑形状対応や大面積処理、機能材料コーティングで、より広範な用途への適応を予定しているほか、溶液プロセスの強みを生かした応用展開を目指す。

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