寿命の尽きた太陽光パネルをアップサイクルしてリチウムイオンバッテリーを作る

シンガポールの南洋理工大学(NTU Singapore)の研究チームが、耐用寿命に達した太陽電池パネルから、高純度のシリコンを低コストで効率的に回収する手法を考案し、高容量の次世代型電池として期待されている、リチウムシリコン電池にアップサイクルできることを実証した。25~30年の耐用寿命後に大量に発生する太陽光パネル廃棄物の有効な資源回収法になるとともに、リチウムイオン電池の性能向上に寄与すると期待している。研究成果が、『Solar Energy Materials and Solar Cells』誌の2023年8月号に論文公開されている。

再生可能エネルギーを牽引する太陽電池は、地球温暖化が深刻になる中で設置が世界的に拡大しているが、その耐用寿命は通常25~30年であり、2050年までに重量にして7800万トンのパネルが寿命に達すると試算されている。寿命に達した太陽光パネル廃棄物には、主要構成材料である高純度シリコンが大量に含まれているが、太陽電池に含まれるアルミニウムや銅、銀、鉛、プラスチックなどといった他の材料とシリコンを分離するのは非常に難しい。更に、リサイクルされるシリコンには多くの不純物が含まれ、アップサイクルして再使用できる純度にはならない場合が多い。高純度なシリコンとして回収する現在の方法はエネルギー集約型であるとともに、非常に有毒なフッ酸を使うか、または強酸性の硝酸と強アルカリ性の水酸化カリウムの2種類を組み合わせる必要がある。加えてパネル表面の反射防止膜を除去することが困難で、不溶性析出物が残留するという問題もあり、資源リサイクルの中で広範に採用するには高コストで多くの限界があるのが実情だ。

研究チームは、食料や飲み物に普遍的に使用されているリン酸を、唯一の化学薬品として使用する新しい方法により、高い回収効率で高純度シリコンを抽出することに成功した。寿命の尽きた太陽光パネルを高温の希釈リン酸中に30分間浸漬することにより、表面から反射防止膜を除去するとともに、アルミニウムや銀の金属を分離することができた。更に、フレッシュなリン酸を用いて再度繰返し、金属類を完全に分離除去することで、高純度シリコンのみから構成されるウエハーを得ることに成功した。

最先端の分光分析などにより回収ウエハーを解析した結果、98.9%の回収率と99.2%の純度を達成できることを確認した。

研究チームは、新しく開発されたシリコン回収方法が、資源のアップサイクルを促進し、高純度シリコンに対して期待される多様な需要を支えることができると考えている。

関連情報

Upcycling silicon from expired solar panels into lithium-ion batteries | NTU Singapore

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