高圧氷Vと水の界面に水と混ざり合わない未知の水を発見 東北大、北海道大、鳥取大、東大

東北大学多元物質科学研究所の新家寛正助教は2023年10月10日、北海道大学、鳥取大学、東京大学と共同で、高圧氷Vと水の界面に水と混ざり合わない未知の水を発見したと発表した。これまでの研究で、さまざまな氷と水との界面にできる、通常の水と混ざり合わない低密度および高密度な未知の水を発見しているが、今回は未調査だった高圧氷Vと水の界面で発見した。

水は多くの自然現象を支配する身近な存在だが、他の液体とは異なる物性を示す。水の物性は地球上のさまざまな自然現象を支配するため、特異な性質の原因を理解することは非常に重要だが、その起源は明らかになっていない。

これまでに研究グループは、光学顕微鏡その場観察により、アンビル型高圧発生装置を用いて、水よりも低密度な氷や、水よりも高密度な高圧氷と水との界面に、通常の水とは混ざり合わない低密度な未知の水と高密度な未知の水(ここではそれぞれ低密度水と高密度水と呼ぶ)がそれぞれできることを発見していた。

しかし、これら未知の水の生成機構や構造の多様性は未解明だったため、今回、調査されていなかった高圧氷Vと水の界面の光学顕微鏡その場観察を試みた。その結果、実験的に、生成機構と構造に関する知見を得ることができた。

研究グループは、これまで調査されていなかった高圧氷Vを研究対象とし、アンビル型高圧発生装置と観察用の微分干渉顕微鏡を低温室内(-10℃)に設置した。水は443MPa(4372気圧)以上の低温高圧の条件におき、氷Vの結晶を作り、顕微鏡で、加圧もしくは減圧に伴う氷V結晶の成長と融解の過程をその場観察した。

加圧で成長する氷Vと水の界面を観察したところ、周囲の水に対してはっきりとした界面を持ち、周囲の水から分離した液体の膜や液滴ができていることが明らかになった。これらの未知の水は、推定される液膜の濡れ角から、周囲の水と比較して高密度であることが示唆され、他の高圧氷と同様に、これまで知られていなかった未知の水ができることが示された。

水/氷V界面における高密度な未知の水のスピノーダル様の生成ダイナミクスの微分干渉光学顕微鏡その場観察像

さらに顕微鏡その場観察により、未知の水の生成に伴い生じるパターンが周期的な波模様を示していた。今回発見した未知の水の波模様の時間発展を解析した結果、スピノーダル分解型液―液相分離の理論が予測する特徴に類似した特徴を見出した。これは、一般的な液―液相分離で、未知の水の生成機構が説明できるかもしれないことを示唆している。

また、未知の水の動きを解析し、液体の流れやすさの指標となる特徴的速度(表面張力と粘性の比)の値を、およそ90m/sと測定することができた。この値は、水の示す値であるおよそ40m/sや、空気と氷Ihの界面にできる疑似液体層の示す値である2m/s~0.2m/sとも異なっている。

さらに、未知の水の液膜がスピノーダル脱濡れのようなダイナミクスを示すこと、その初期過程で波模様に異方性が生じることを発見した。このような波模様を伴う脱濡れは、スピノーダル脱濡れと呼ばれているが、一般的に等方的である液体の場合はどの方向にも同様の周期を示す。

しかし、今回は氷Vの結晶学的異方性を反映した異方性が見られ、未知の水は、一時的に異方性を示す流体である液晶の性質を持つことが示唆された。脱濡れ初期の未知の水は液晶である可能性を世界で初めて示したことになる。

水/氷V界面における高密度な未知の水のスピノーダル様の脱濡れダイナミクスの微分干渉顕微鏡その場観察像

今後、さらに詳細に、未知の水の多様性や生成機構を明らかにしていくことで、水の特異物性や氷の結晶化過程の謎に迫ることが期待される。

関連情報

水/高圧氷の界面に液晶らしき”未知の水”を発見 ダ… | プレスリリース・研究成果 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る