3種のモードを備えた調光ガラス――可視光と近赤外光を独立して遮断できる新素材を開発

Photo credit: Michael.

ノースカロライナ州立大学を中心とする研究チームが、単一材料で可視領域と近赤外領域の光線を独立して遮断できる、「デュアルバンド型」エレクトロクロミズム材料を開発した。建物の次世代型スマート窓ガラスとして、普通の透明ガラスモード、近赤外線だけを遮断して室内を涼しくする遮熱ガラスモード、視界を保ちながら眩しさを防ぐティントガラスモードという3種のモードを、電圧操作によって実現するものだ。研究成果が、2023年9月1日に『ACS Photonics』誌に論文公開されている。

エレクトロクロミズムは、電気化学的酸化還元を通じて光の透過率を可逆的に変化させることで色調や濃度が変わる現象で、これまでに酸化タングステンやビオロゲン、π共役系高分子などで確認されている。近年、遮光や断熱といった省エネルギーの観点から、メモリ性を持つエレクトロクロミズム材料が注目を集めている。例えばボーイング社の飛行機の客席窓にはエレクトロクロミックガラスが採用され、窓脇にあるスイッチを押すと窓全体が徐々に青みがかり、最後は真っ暗になる調光窓を実現している。

素材として透明な酸化タングステンを用いたエレクトロクロミックガラスが多く、陽イオンが存在する電解質中における電気化学反応によって、可視光と近赤外光の区別なく吸収するもので、透明ガラスモードから光を遮断するティントガラスモードに可逆的にスイッチする。建築用窓などに取り入れられ始めており、自動車のサンルーフなど多様な場所で使われると期待されている。

今回研究チームは、酸化タングステンが可視光および近赤外光の区別なく可逆的に透過/遮断するのに対して、単一材料で可視領域と近赤外領域を独立に調光できる「デュアルバンド型」エレクトロクロミックガラスの開発にチャレンジした。

研究チームは、酸化タングステン結晶構造に水を結合させ、酸化タングステン水和物を形成させると、これまで知られてなかった挙動を示し、リチウムイオン/電子(Li+/e-)を注入すると調光される波長領域を効果的に制御できることを明らかにした。Li+/e-を低量注入すると可視光は透過するが近赤外光は遮断する遮熱ガラスモードを実現し、更にLi+/e-を多量注入すると可視光および近赤外光ともに遮断するティントガラスモードを実現する。

「酸化タングステン水和物は、通常の酸化タングステンよりも低密度化して多くのLi+を収容でき、2つの異なったモードを実現できる。遮熱ガラスモードでは、結晶構造変化なしに近赤外光だけを吸収する光学効果だけを生じる。一方、ティントガラスモードになるまでLi+が注入される段階では、結晶構造変化を伴う相転移が生じて可視光と近赤外光の両方を遮断する」と、研究チームは説明する。

「水和物によるデュアルバンド調光制御は、今後の高機能商品開発を加速する可能性があるとともに、スマート窓ガラスの開発を超えて、エネルギー貯蔵やエネルギー変換材料における技術革新につながるかもしれない」と、研究チームは期待している。

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