物質・材料研究機構(NIMS)は2019年5月22日、富士電機と共同で、窒化ガリウム(GaN)に注入した微量なマグネシウム(Mg)の分布や電気的状態を、ナノスケールで可視化することに世界で初めて成功したと発表した。今回開発した手法によって、Mgイオン注入によりGaNがp型半導体に変化するメカニズムの一端が明らかになったことから、GaNパワーデバイスの量産に向けて、最適なMg注入条件の探索に大きく貢献することが期待できるとしている。
省エネ化の切り札となるGaNパワーデバイス実現のためには、n型、p型のGaN半導体を作製する必要がある。特にp型GaN半導体の量産については、GaNウエハにMgイオンを注入して熱処理することでp型を形成する方法が有力視されているが、添加するMgの濃度や熱処理の温度条件によってGaNの内部でMgの分布や電気的なふるまいがどのように変化しているのかをナノスケールで評価する方法がなく、p型が形成されるメカニズムが不明のため、GaN素子量産に向けた大きな壁となっていた。
今回、実験チームはMgイオンを注入したGaNウエハを斜めに研磨した試料にカソードルミネッセンス(発光分布評価)法を用いることで、表面付近ではMgは活性化されておらず、表面から数10nmのところで活性化していることを明らかにした。さらに、アトムプローブトモグラフィーを用いることで、Mgの濃度が高くなると、温度によってはMgが円盤状/ロッド形状に析出することも発見した。これら最新の顕微法による解析情報を組み合わせることで、Mgを注入した表面付近では温度条件によってはMgが析出して活性化されない可能性があることが明らかとなった。
今回の研究成果により、イオン注入でのp型GaN層実現に向けた重要な指針を得ることができたという。さらにこの手法は、今回のように均一なウエハ上の不純物分布の解析だけでなく、さまざまな構造を持ったGaNデバイス材料にも適用できるため、高性能なGaNデバイス開発の加速が期待できるとしている。