ミラーやレンズを使わず空気だけでレーザー光を偏向する新技術――音波を利用しレーザービーム本来の品質も保つ

空気だけでできた目に見えない回折格子によって、レーザー光の方向を変えることができる技術が開発された。この格子はレーザー光による損傷を受けないだけでなく、レーザービーム本来の品質を保つこともできる。この研究は、ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)、ドイツの重イオン研究所(GSI)、ダルムシュタット工科大学などが共同で実施したもので、その詳細は2023年10月2日付で『Nature Photonics』に掲載された。

この新しい技術では、レーザー光線が通過する領域の空気を調整するために音波を使用している。特殊なスピーカーによって、空気中に高密度部分と低密度部分のパターンを形作り、縞模様の格子を空気中に形成すると、密度パターンがレーザー光線の方向を変える光学格子の役割を担う。空気の密度が異なると、地球の大気中でも光の進行方向は曲げられるが、この場合、地球の大気中での偏向よりもレーザー光をより正確に制御できる点が特徴だ。

実験室での最初のテストでは、効率50%で強い赤外線レーザーパルスの方向を変更することができた。数値モデルによれば、将来的にはもっと高い効率で実行可能になるはずだという。

この光学回折格子の特性は、音波の周波数と強度、すなわち音量に影響を受ける点だ。そのため、最初のテストでは、特殊なスピーカーの音量を目いっぱい上げなければならなかった。研究チームが実行したのは、ジェットエンジンから数mしか離れていない距離の音圧レベルに相当する約140デシベルだが、人間の耳が感知しない超音波の範囲となっている。

今回の実験では、LED電球約20億個分に相当する、ピーク出力20ギガワットの赤外レーザーパルスを使用した。このレベルと同等、あるいはこれ以上の高出力レーザーは、材料加工や核融合研究、最新の粒子加速器などで使用されているが、この出力範囲では、ミラー、レンズ、プリズムの材料特性がその使用を大幅に制限するうえ、このような光学素子は強いレーザー光線によって損傷しやすく、レーザー光線の品質も低下する。それに対し、研究チームは、レーザー光に接触することなく、かつ、その品質を保ったままレーザー光線を偏向させることができた。

この成果は、特に高出力レーザーの高速スイッチへの応用について有望な可能性を開くものだ。研究チームは、この手法についてすでに特許を出願している。

また、気体中のレーザー光を音響で制御する原理は、光学回折格子生成にとどまらず、レンズや導波路のような他の光学素子にも応用できるだろうと考えられている。今回は通常の空気で新技術を試したが、今後は、他の波長や光学特性、光学的形状も活用するために、他の気体も使用する予定だという。

関連情報

DESY News: Lasers deflected using air – Deutsches Elektronen-Synchrotron DESY
Acousto-optic modulation of gigawatt-scale laser pulses in ambient air | Nature Photonics

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