骨折した部分を固定して治癒する、生分解性インプラントを開発

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骨折治療は、正しく治癒せず治療後に合併症が生じる場合がある。場合によっては再手術や長期入院が必要になり、患者への負担だけでなく医療資源上も問題となる。

ドイツでは、年間で約80万件実施される骨折治療のうち、10%程度で癒合不全による合併症が発生しているという。この問題を解決するために、フラウンホーファー研究機構を中心とするドイツの共同研究プロジェクトSCABAEGO(Scaffold Bioactive Glass-Enhanced Osteogenesis)は、国の支援を受けて癒合不全の治療に使用する複合材料を開発した。この材料から作製したインプラントは、治療の成功率を大幅に向上させ、治癒プロセスを促進するように設計されている。

開発した材料は、生分解性ポリマーであるポリカプロラクトン(PCL)と生体活性ガラスを組み合わせた複合材料だ。3Dプリントにより、「scaffold」と呼ばれる骨折部位の主構造と支持構造のインプラントを作製する。インプラント作製前に、CTで損傷した骨の構造をマッピングするため、オーダーメイドでぴったりの構造物が骨の欠損部分を補うことになる。損傷部位にscaffoldを配置した後、腸骨などから採取した骨髄を充填し、骨の形成を促す。

足場として設置されたscaffoldは、創傷部位の細菌の増殖を抑制し、新しい骨構造の成長を促進することを目的としている。scaffoldに含まれる生体活性ガラスは、周囲のpHを塩基性に上昇させる。研究チームはpHの変化により、細菌の繁殖が抑えられて術後感染のリスクが減少することを期待している。また、生体活性ガラスは、骨折部位の新生骨の成長もサポートする。生体活性ガラスは体液と接触することで、骨によく似た化学物質であるヒドロキシルアパタイトに変化する。

さらに、scaffoldは6〜7年で完全に生分解されるため、治癒後に取り出すための再手術は必要ない。一方、骨セメントを使用する従来の骨折治療は、骨膜形成後に骨セメントの除去や自家骨の埋没など再手術が必要となる。

SCABAEGOプロジェクトチームは、ハイデルベルク大学病院と協力して試験管内での実験および前臨床試験を開始している。また複合材料の最適化も進めており、足場の強度を維持しながら生体活性ガラスの特性を最大限利用できる比率を研究している。

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