#Japan Mobility Show 2023レポート 電動化を支える最新のバッテリー技術とは

Japan Mobility Show 2023(ジャパンモビリティショー)」が、2023年10月26日〜11月5日の日程で東京ビッグサイトにて開催された。従来の東京モーターショーから名称を変え、「モビリティ」をキーワードに自動車業界以外からも幅広い出展者が参加、過去最大規模となった。

fabcross for エンジニアでは、その中から「注目のモビリティ」「車載充電池」「タイヤ」に関連した主要な展示をまとめてピックアップして紹介する。今回のテーマは「車載充電池」だ。(執筆・写真撮影 後藤 銀河)

LFP型リチウムイオン電池「Blade Battery」――BYD

コロナ禍前の東京モーターショーでは、海外自動車メーカーの展示は数社程度と、国際色は弱まっている感はあったが、今回のジャパンモビリティショーで一際目立っていたのが、中国・深センを本拠地とするEVメーカー比亜迪(BYD)だ。

EVに関して、日本はこれまでEVバスを中心に実績を伸ばしていたが、最近では乗用車の販売店も見かけることが増えてきた。BYDは日本での販売台数はまだ多くはないが、EVの本場となった中国ではトップメーカーであり、世界的にもテスラを急追する勢いがある。ジャパンモビリティショーでもそのラインナップが注目を集めていたが、ここで取り上げるのは、EVの心臓部と言える、リチウムイオン電池(LIB)技術だ。

これまで日本のEVに採用されてきたLIBは、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)の三元素を正極材に使う三元系(NMC)と呼ばれるタイプが、エネルギー密度が高く、サイクル寿命も長いことから主流となっている。これに対してBYDが搭載するバッテリーは、正極にリン酸鉄リチウム(LFP)を使うタイプだ。リン酸鉄リチウムは結晶構造が強固で、熱安定性が高く、サイクル寿命もNMCより長いという特徴がある。BYDのブースでも、電池のケースに鉄釘を刺して強制的にショートさせる「釘刺し試験」においても発火しない、という安全性をアピールする動画を繰り返し流していた。

安定性や耐久性が高いLFP電池だが、NMC系に比べてエネルギー密度が低く、同等の走行距離を実現するために、必要な電池セルの数が多くなってしまうという課題があるが、BYDは「Blade Battery(ブレードバッテリー)」と呼ばれるLFP電池を開発し、EV乗用車に搭載している。

フロア下部全面に組み込まれたブレードバッテリー。LIBパックを介さずにセルをボディに直接組み込むCTB構造だ

一般的なNMC系LIBは、電池材料をラミネートフィルムの外装材で包んだラミネート型と呼ばれるものが多い。電池セルを薄型にできるため、これを積層して金属ケースに収めたモジュール(スタック)を、必要な電池容量ごとにまとめてLIBパックとして車両に搭載する。BYDのブレードバッテリーは、バッテリーセル自体に強度を持たせて、ボディの一部として接合する構造であるCTB(Cell to Body)技術を採用することで、空間利用率を50%改善したという。そして、ブレードバッテリーをフロア一面に敷き詰める形のEV専用プラットフォーム「e-Platform 3.0」を開発することで、LFPながらNMCバッテリー搭載車両に匹敵する、長い航続距離と広い室内空間を実現することに成功している。EVトップメーカーのテスラも、トラックや低価格帯モデルにはLFPを採用するとしており、LFP系LIBは今後の性能向上に伴って普及が拡大していくと思われる。

車載LIBを考えるときに重要な要素の一つとして、温度管理がある。バッテリーの内部抵抗により、特に大電流による充放電時にはLIBの寿命に影響を及ぼす発熱が生じるという問題がある。また、冬場の低温時にはこの内部抵抗が高くなって放電容量が低下するため、航続距離が短くなってしまう。こうしたLIBの温度制御の課題に対して、BYDは車内の冷暖房に使用するヒートポンプシステムを利用し、専用の冷却水ではなく、冷媒を使ってバッテリーセルと直接熱交換する仕組みを採用しているようだ。同社によれば、ヒートポンプの採用により、冬場の航続距離が10%改善したという。

e-Platform 3.0のフロント側。コンパクトなヒートポンプが、室内の空調とブレードバッテリーの温度管理を担っている

LIB急速充電システム――SEVB

日米欧の自動車メーカーのEVがLIBとしてNMC系を採用する理由の一つは、高いエネルギー密度を生かした航続距離の長さだろう。航続距離が短ければ充電する回数が増え、特に長距離運転時にはデメリットとなる。中国の大手電池メーカー欣旺达 (Sunwoda:サンオーダ)のグループ企業 Sunwoda Mobility Energy Technology(SEVB)は、BYDのブレードバッテリーと同じくLFP系のLIBなどを開発している。ジャパンモビリティショーでは、商用車向けLIBパックなどを展示していた。

商用車向けLIBパックシステム。単体のエネルギーは35.9kWh、重量232kg

エネルギー密度は155Wh/kgとLIBとしては標準的な値だが、セルのサイクル寿命は6,000回と長寿命になっている。20分以内でSOC(State Of Charge:電池の充電状態を表す指標)10%から90%への急速充電が可能で、107〜536kWhの組み合わせが可能というところも、商用車に適したLIBユニットだ。

また、同社のブースでは「10分で80%まで充電可能」という、キャッチーな看板が人目を引いていた。SEVBのSuper-Fast Charging Batteriesの特徴は、6Cの超急速充電対応だ。充電池の充放電のスピードのことをCレートと呼び、理論容量を1時間で充電(あるいは放電)する電流を1Cと定義する。一般的にNMC系のLIBのCレートは1〜2程度とされており、実際には細かな充電制御が行われているため正確な説明ではないが、2Cは30分で満充電近くまで充電できるレベルだ。実際には先ほどの商用車向けLIBの20分で90%という急速充電が、4Cクラスとなる。展示では6Cを実現するための技術的要素の詳細はわからなかったが、電池のモックアップはLIBセルをアルミの冷却パネルで交互にサンドイッチしてスタックしたパック(あるいはCTB構造)だと思われる。このあたりの熱設計が重要なポイントなのかもしれない。

バイポーラ型ニッケル水素電池――豊田自動織機

豊田自動織機がトヨタと共同開発したバイポーラ型ニッケル水素電池

エネルギー密度が高く、充電時間が短く急速充電も可能なLIBが、EVの電池としては主流となっている。重量エネルギー密度がLIBの半分程度とされるニッケル水素電池(Ni-MH)は、車載用としては主にトヨタのハイブリッド(HEV)車に搭載されている。

バイポーラ型という画期的な構造は、ニッケル水素以外の充電池にも応用可能な技術と言える

一般的にバッテリーのセルは電気を取り出すため、集電体と呼ばれる金属箔が正極と負極の2枚あり、セパレータと呼ばれる絶縁膜を挟んで電解液に浸されており、電流は集電体につながった端子から取り出される。これはモノポーラ型という構造で、電圧を高めるために複数のセルを直列接続する場合、各端子を直列に接続していくことになるが、厚さの薄い集電体の長手方向に電流を流して、断面積の小さい端子から取り出すのでは、経路の抵抗値が高くなってしまう。これに対して、1枚の集電体の片面に正極材を、もう片面に負極材を塗布したものを複数枚積層してパックにしたのがバイポーラ型だ。電流は広い集電体の厚み方向に流れるので、電池の内部抵抗は大幅に低減でき、大電流を流すことが可能だ。集電体の枚数も半減し、セルごとのケースが不要になることで、パックもコンパクトにできるというもので、2021年7月に発売されたトヨタの2代目アクアから採用されている。同社によれば、初代アクアに比べて約2倍の高出力化を達成したという。



ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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