#Japan Mobility Show 2023レポート タイヤが目指す将来のモビリティとは

Japan Mobility Show 2023(ジャパンモビリティショー)」が、2023年10月26日〜11月5日の日程で東京ビッグサイトにて開催された。従来の東京モーターショーから名称を変え、「モビリティ」をキーワードに自動車業界以外からも幅広い出展者が参加し、過去最大規模となった。fabcross for エンジニアでは、その中から「注目のモビリティ」「車載充電池」「タイヤ」に関連した主要な展示をまとめてピックアップして紹介する。今回のテーマは「タイヤ」だ。(執筆・写真撮影 後藤 銀河)

アクティブトレッド――住友ゴム工業

日本では、新車で工場搭載される標準タイヤは、いわゆるサマータイヤと呼ばれるドライ性能とウェット性能を重視したタイプだ。その名の通り、雪上や氷上では全くグリップしないため、冬季に降雪がある地方ではスタッドレスタイヤに交換するケースが多い。

北米ではM+S(マッドアンドスノー)というオールシーズンタイヤが標準で工場搭載されるようになっており、さまざまな路面に対する性能向上が進んでいる。日本でも最近はタイヤショップでオールシーズンを勧められることも増えてきた。さすがにアイスバーンのような路面ではスタッドレスが必要になるが、雪上性能を高めたスリーピークマウンテンスノーフレークマーク(※)がついたタイプも登場しており、利便性が高まっている。

※ASTM(米国材料試験協会)の試験で、厳しい寒冷地でも十分な冬性能を発揮することが認証されたことを示すマーク

究極のオールシーズンタイヤとも言えるアクティブトレッド技術

この一つのタイヤで全ての路面状況に対応するという考えを追求しているのが、住友ゴム工業のタイヤブランド、ダンロップの「アクティブトレッド技術」だ。展示ではサマータイヤ向けの「TYPE WET」とスタッドレス向けの「TYPE ICE」が紹介されていた。雨天時には路面とタイヤの間に水が入り込むことでスリップしやすくなるが、これまではタイヤトレッド(接地面)のパターンで排水性能を高める方向が主だった。TYPE WETではゴムに吸水性を持たせることで、ウェット時には吸水したゴムの表面が軟化するような素材を使用している。また、サマータイヤが雪道に弱いのは、低温時にゴムが硬化してしまい路面をグリップしなくなるためだが、TYPE ICEは氷上で柔らかさを生む材料や低温で硬くなりにくい材料、そして北海道大学と共同研究している低温で柔らかくなる材料を使用することで、低温時にゴムが軟化してグリップ力を高めている。

ウェット性能と氷上性能の向上は、それぞれ異なる素材の組み合わせで実現している

このアクティブトレッド技術によって、タイヤパターンはサマータイヤ同等のまま、ウェット時も降雪時も、あらゆる路面状況において高い性能を発揮するタイヤが実現できるという。同社は、アクティブトレッド技術を採用したオールシーズンタイヤを、2024年を目処に実用化するとしている。

スポーツタイヤを快適にする硬度可変スタビライザー――ヨコハマタイヤ

タイヤ断面のことをプロファイルと呼ぶが、最近のスポーツタイヤではホイールのサイズを大きくしてタイヤを薄くするロープロファイル化が顕著だ。ドレスアップ的な要素も大きいが、本来ロープロファイル化の狙いはタイヤのサイドウォール(側面)を短くして剛性を高め、グリップ力やレスポンスなど運動性能を向上させることにある。一般的には、剛性のアップによる性能向上と乗り心地は相反する関係にあるが、ヨコハマタイヤは、「硬度可変スタビライザー」を組み込むことで、タイヤの剛性をダイナミックに変化させるFuture Sport Tire conceptを紹介した。

青い部分がトレッドの剛性を、赤い部分がサイドウォールの剛性を変化させるスタビライザーとして機能する

スポーツタイヤをより快適に、を狙いとする硬度可変スタビライザー技術は、電気信号によって強度を変えられる、トレッド面剛性調整スタビライザーサイドウォール面剛性調整スタビライザーという2種類の機能を備えている。トレッド面剛性調整スタビライザーはトレッド部の剛性を変化させ、路面状況や運転状況に応じてタイヤの追従性を高めることができる。サイドウォール面剛性調整スタビライザーはサイドウォール部の剛性を変化させることで、タイヤのプロファイルはそのままに乗り心地を改善できる。

コーナリング時に外側のサイドウォールだけ剛性を高めるような制御も可能だ

また、タイヤがパンクして空気圧が失われた場合でも、スタビライザーによってケーシング(タイヤの形状や剛性を維持する部分で、ナイロンなどの合成樹脂やスチールコードで編まれた繊維をゴムで被覆している)の剛性が保たれ、応急的に走行することが可能だ。そして、この硬度可変スタビライザーはタイヤのゴム部分とは分離されているため、タイヤ交換時に取り外して再利用することもできるという。

EVを走行中に充電する給電タイヤと月面ローバ用金属製タイヤ――ブリヂストン

EVの航続距離を延ばすには、電池容量の増大や電費の改善などが有効だが、走りながらEVをワイヤレスで充電する、走行中給電という技術が研究されている。ブリヂストンが開発する「給電タイヤ」もその一つだ。

ホイール外周、タイヤ内部に中継コイルを配し、ホイール内に受電コイルをおく構成だ

走行中給電は、道路に埋め込まれた送電コイルと車両に搭載された受電コイルの間で行われるが、多くの場合、受電コイルは車体下部に設置される。これはラジアルタイヤに使われているスチールベルトが両コイルの間に入ると誘導電流が流れてしまうという問題を避けるためでもある。ブリヂストンの給電タイヤは、東京大学大学院新領域創成科学研究科を中心とした産学協同プロジェクトの一環で、「すべてをタイヤのなかに」というコンセプトのもと、EVの駆動装置であるモータ・インバータと、ワイヤレス給電の受電回路のすべてをタイヤとホイール内に収納するという、インホイールモーター用タイヤだ。

このタイヤのポイントは走行状況によって送電コイルと受電コイル間の距離が変化して効率が低下することを防ぐため、タイヤ内に中継コイルを設けることで、送電コイルと受電コイル間の距離を縮め、給電効率を高めたことだ。同社によれば、10秒の充電で1kmの走行が可能だという。もちろんワイヤレス給電を阻害するスチールベルトを使用せずに、ラジアルタイヤ内にコイル配置を実現したことも特筆すべきポイントだろう。このプロジェクトは柏の葉スマートシティにおいて、実証実験を進めていることが発表されている。

金属の曲げ強度を使ってタイヤの空気圧の代わりとし、宇宙飛行士らの乗り心地にも配慮する

また、ブリヂストンは、JAXAとトヨタが開発を進める、月面探査用有人与圧ローバ「ルナクルーザー」向けの特殊タイヤを開発、展示した。月面環境は気温が-170〜120℃と高低差が大きく、高エネルギーの放射線も降り注ぐため、通常のゴム素材では長期間の使用に耐えられないという。また、宇宙では通常のタイヤのように空気で車体を支えることができないため、金属の繊維を編んだオール金属製タイヤとした。また、月の表面はレゴリスと呼ばれる非常に細かい砂で覆われており、接地圧が高いとタイヤが埋まって動けなくなるという。そのため1つのホイールに2本のタイヤを履かせたダブルタイヤ構造をとっている。



ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


関連記事

#Japan Mobility Show 2023 電動化を支える最新のバッテリー技術とは
#Japan Mobility Show 2023 レポート自動車から飛行機まで――日本のモビリティが目指す将来像は
【東京モーターショー2019】自動で空気が入るタイヤから空飛ぶタイヤまで――タイヤメーカーが提案する未来のタイヤとは

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る