- 2023-12-20
- 化学・素材系, 技術ニュース, 海外ニュース
- Souvik Bhattacharyya, アッセイ(検体の評価・測定), スウォーミング, テキサス大学オースティン校, バイオフィルム, 大腸菌, 学術, 抗生物質耐性菌, 神経系, 米国科学アカデミー紀要(PNAS), 細菌, 脳
細菌は脳や神経系を持たないが、その体験から記憶のようなものを作り、数世代にわたって受け継いでいることが明らかとなった。テキサス大学オースティン校の研究チームによると、この記憶の分子的基盤は、細胞内の鉄の濃度だという。今回の発見は、細菌による感染症の予防や対策、抗生物質耐性菌の課題解決に応用できる可能性があるという。研究成果は、『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に2023年11月21日付で公開されている。
これまでに、スウォーミング(細菌が群れを形成し、べん毛によって集団として表面を移動すること)を経験した細菌は、その後のスウォーミング効率が向上することが知られている。細菌にはニューロンやシナプスのような神経系はないため、その記憶は私たちの記憶とは異なり、コンピューターに保存された情報に似ている。
「細菌は脳を持っていませんが、環境から情報を収集することができます。そして、その環境に頻繁に遭遇すると、その情報を保存することで、後ですばやく情報にアクセスできるのです」と、論文の筆頭著者であるテキサス大学のSouvik Bhattacharyya博士は説明する。
研究チームは1万回以上のアッセイ(検体の評価/測定)を実施し、大腸菌がさまざまな行動に関する情報を保存するために、鉄を利用していることを発見した。鉄の濃度が低い細菌ほど群れを作った。一方、細菌が密集した粘着性の集合体であるバイオフィルムを固体表面上に形成する細菌は、細胞内の鉄濃度が高かった。また、抗生物質に対する耐性を持つ細菌はバランスのとれた鉄濃度であることも明らかとなった。これらの鉄の記憶は、少なくとも4世代継続し、7世代目には消失した。
研究チームは、鉄濃度が低いとき、記憶がトリガーとなりスウォーミングによって高速移動し、環境中の鉄を探し求める、と理論化している。逆に、鉄濃度が高いとき、記憶はこの環境がバイオフィルムの形成に適した場所であることを示している。
大気に酸素が存在する以前の初期の地球上生命は、細胞プロセスに鉄を利用していたものが多かった。研究チームによると、鉄は地球上の生命の起源だけでなく、生命の進化にも重要であるため、細胞が記憶に鉄を利用するのは理にかなっているという。「鉄は病原性において重要な因子であるため、鉄濃度は間違いなく治療ターゲットになります。細菌の行動がわかればわかるほど、細菌と戦うことが容易になるのです」と、Souvik Bhattacharyya博士は述べている。