- 2023-12-22
- REPORT, 制御・IT系, 機械系, 電気・電子系
- Arduino, Intel RealSense, Jetson, Luxonis OAK-D, M5Stack, micro:bit, myCobot, Raspberry Pi, SPRESENSE, カメラ, キーボード, スイッチサイエンス, マイコン, マイコンボード, ロボットアーム, 深度カメラ, 転載, 量子コンピューター, 電子部品
2023年、猛威を振るった新型コロナも収束し、日常生活は戻ったものの、日本経済の先行きはまだまだ不透明だ。そんな中、電子部品の売上動向はどう推移したのだろうか? 年末恒例 「スイッチサイエンス年間売上ランキング」から2023年のトレンド商品を探ってみたい。
ランキングは、Webショップで扱っている個々の商品の最新販売価格に出荷数をかけたものだ(集計期間は2022年11月〜2023年10月)。スイッチサイエンスで仕入れやイベント出展などを担当する安井良允氏とネットショップ店長の牧井佑樹氏の2人にインタビュー。ランキング表を見ながら2023年の傾向について語ってもらった。
M5Stackは第3世代に突入
——ベスト3は、M5Stack、Jetson、Raspberry Piが占めました。
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安井氏
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弊社の主力である3商品がやはり上位独占となりました。ランキングに占める関連商品を含め、商品群としても今、勢いがあることが見てとれます。
——1位は2023年もM5Stackでしたね。
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安井氏
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M5Stackシリーズは、1位の「M5Stack Core2 IoT開発キット」ほか、5位に「M5StickC Plus」、6位に「M5Stack Basic V2.6」、7位に「M5Stack Basic V2.7」と4製品がベスト10にランクインしました。台数としては、M5StickC Plusが一番出ていますね。小さいながら液晶画面も付いて、価格とのバランスも良いところが人気の秘密でしょうか。1位のM5Stack Core2 IoT開発キットは、StickCやBasicに比べて単価が高い分、1位になりましたが、M5Stackシリーズでもこの3機種が今のメインといえそうです。
注目は15位の「M5Stack CoreS3 ESP32S3 IoT開発キット」です。2023年5月にリリースされたのですが、ESP32-S3という新しいチップが載ったCoreの新シリーズになります。Core2に比べ、値段も上がりましたが、カメラやセンサー類など新たな機能もたくさん付いています。
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牧井氏
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M5Stackシリーズの入門機としては、第1世代がBasic、第2世代がCore2、このCoreS3が第3世代になりますね。5月からの発売ということもありますが、もっと数が出ていい商品なので、まだみなさん様子見というところかと。入門機としてはちょっと難しいという印象なのかな?
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安井氏
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新チップESP32-S3搭載のシリーズとしては、16位の「ATOMS3」、38位の「M5Stamp S3」もそうですね。ATOMS3は、ATOMに初めて液晶が付いたタイプで、親指サイズの手軽な液晶付きマイコンとして複数使うのに適しています。2023年のMaker Faire Tokyoでもそういう使われ方をしている作品をよく見ました。
Jetsonは値段が上がり、プロユースへの流れが加速
——2位は「Jetson AGX Orin 32GB開発者キット」でした。
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安井氏
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Jetsonは人気のAI開発ボードで、単価が高くともそれなりの数が出ているのでトータルするとこの位置になります。14位にも「Jetson AGX Orin 64GB開発者キット」がありますが、AGXとしては今後こちらが主力になりそうです。ほかに、9位に「Jetson Orin Nano開発者キット」、11位に「Jetson Nano 開発者キット B01」、37位に「Jetson Xavier NXモジュール」がランクインしています。
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牧井氏
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Jetsonのグレードでいうと、上からAGX、NX、Nanoといった感じなのですが、世代がXavierからOrinに変わって値段も上がっちゃったんですよね。Nanoでさえ、9位Jetson Orin Nano開発者キット(税込8万3380円)は、11位Jetson Nano 開発者キット B01(税込3万800円)に比べ、価格は約3倍。「ちょっとAIをやってみようか」と買うにはさすがに高い。Jetsonは当初、高性能なシングルボードコンピューターとしてメイカーの方々にも注目を受けていましたが、今の価格帯となると、AI技術など、より先進的なテクノロジーに向けた用途での利用に限られてきてしまいました。
37位にJetson Xavier NXモジュールがありますが、Xavier NXの開発キットがなくなってしまって、評価するためにはモジュールを買うしかないっていう流れです。59位にSeeedから出ている「reComputer J2021(ACアダプタ抜き)」は、Jetson Xavier NXが載っているモデルで、同じ理由でこの位置にいるんだと思います。
在庫復活により安定供給できたRaspberry Pi4
——2024年はRaspberry Pi5も登場すると思いますが。3位の「Raspberry Pi 4 Model B / 8GB」に関してはどうでしょうか?
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安井氏
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2022年後半から2023年春ごろまでは在庫がありませんでした。2023年の後半になって安定供給されるようになってこの位置にいます。逆に8位の「Raspberry Pi 400 日本語キーボード」は前半在庫がなかったときに代替品としてよく売れました。Raspberry Pi5に関しては、技適がまだ取れていないので、日本での発売時期は明確になっていませんが、発売されれば主力商品となるでしょう。ただ、いきなり5に切り替わるのではなく、当面は4と併用されると思います。在庫を切らさないよう注意したいと思っています。
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牧井氏
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4と5は結構違うんですよね。性能がかなり上がっています。ただ、その分、発熱量が増えたのでなかなか冷却用のファンなしで使うのは難しいかも。もちろんそのためのケースとかいろいろ出てくるとは思いますが。4の方が発熱量も消費電力も低いので、そういう点で求められる可能性は十分あります。個人の方だといきなり5に切り替えるというケースもあるかもしれませんが、仕事で使っている人はそうはならないと思います。
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安井氏
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13位に「Raspberry Pi 4 スターターキット(4GB RAM版)」が入っていますが、これがどう動くかは注目ですね。初めてRaspberry Piに触れる方が、4から始めるのか、5から始めるのか。初心者でも、学校や職場では4だから、4からという人も一定数いるでしょう。同じく12位の「ラズパイ4に最適なACアダプター 5.1V/3.0A USB Type-Cコネクタ出力」の売上も気になっています。このアダプターは4でも使えるのですが、5は5アンペアまで使えるので、周辺機器が多い場合はフルの性能が引き出せない可能性があります。悩ましいところです。
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牧井氏
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単価が安いのでランキングは下ですが、64位に「Raspberry Pi Pico」がいます。1000円を切る安さでこのランクにいるのですから、台数では、M5StickC PlusやArduino Unoより出てますね。価格が安いので初めての方でも手に取りやすいのですが、Arduino UnoやM5Stackのような至れり尽くせりのマイコンボードに比べると、逆に使いづらさもあります。そういった細かいところをフォローした解説書などがあると、もっと台数は伸びると思いますね。
古典のArduino、教育のmicro:bit、潜在力の高いSPRESENSE
——その他のマイコンボード関係の動きはどうでしょう?
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安井氏
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もはや古典といっていいArduinoですが、10位に「Arduino Uno R3」、17位に「Arduinoをはじめようキット」がランクインしています。2023年6月にリリースされた「Arduino Uno R4 Minima」も57位に登場しました。機能が上がったわりに価格はR3より安いので、今後はこちらが徐々に伸びていくと思います。一方で、新しすぎてランキングの集計外となってしまいましたが、Uno R4はWi-Fi機能搭載モデルも出てきました。M5Stackなど「Wi-Fiが使えるボード」がある中で、「ArduinoでWi-Fi」という使われ方が今後もされていくかどうかが鍵ですね。
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牧井氏
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19位の「micro:bit(マイクロビット) v2.2」は、バージョンが上がって機能も増え、教育用マイコンボードとしては一定の地位を占めたと思います。多少価格は上がりましたが、依然として教育現場ではよく使われています。54位にも関連商品といえる「micro: Maqueen Lite – micro:bit Robot Platform」がランクインしています。ライントレーサーの機能が付いた教育用ロボットなのですが、根強い人気です。
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安井氏
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43位の「SPRESENSEメインボード[CXD5602PWBMAIN1]」ですが、ソニー製のマイコンボードということでブランド力もあり、消費電力の割に機能も高い商品ですが、逆に使いこなせないのではないか、と思う人も多いようです。もともとBtoBなどプロユースを意識した商品ですが、潜在力をうまくアピールできればもっと上位に来ると思います。
科学技術の未来を開く量子コンピューターもランクイン
——2022年のスイッチサイエンス年間売上ベスト100の記事でも注目商品として取り上げた「Gemini-Mini – 2-qubit ポータブルNMR量子コンピュータ」が18位にランクインしました。
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安井氏
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100万円を超える桁違いの単価ですから、台数は少なくてもたちまちランクインといった感じです。それでも21位にランクインした「【お取り寄せ】Triangulum – 3-qubit デスクトップ型NMR量子コンピュータ」と合わせ、「机の上で使える量子コンピューター」というのはすごいと思います。超電導を使うタイプは大型の冷却器が必要でデスクトップというわけにはいきません。この商品は磁気を使うタイプなので、机に収まるほどコンパクトになりました。
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牧井氏
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こういうデスクトップ用量子コンピューターっていうのは日本でも初なので、2023年は一般の研究機関や大学の研究室レベルに入った元年といえるのではないでしょうか? この商品をきっかけに、本格的に量子コンピューターの研究をする人が増えたらうれしいですね。
主力商品として成長したmyCobot
——ロボットアームmyCobotも上位にランクインしてますね。
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牧井氏
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順位としては、20位「myCobot 280 M5 – ロボットアーム(旧モデル)」が最上位ですが、ほかに28位、42位、47位、55位、62位、86位、94位と7機種もランクインしています。特に42位の「myCobot 280 Pi – ロボットアーム(2023年モデル)」は評判が良い商品です。品質が上がったという評価を受けています。おそらく今後はこれがスタンダードモデルになっていくでしょう。
51位には「myAGV – myCobot用搬送車」がいます。これはmyCobotが運べるAGV(Automatic Guided Vehicle 無人搬送車)で、myCobotの多用な使い方につながる面白い商品だと思います。さらにラインアップも充実して、今後も弊社の主力商品になりそうです。
バラエティに富む深度カメラの世界
——100位までの順位を見ると、マイコンボードとロボットアームを除いたところではIntel RealSenseやLuxonis OAK-Dといった深度カメラが目につきますね。
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安井氏
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そうですね、Intel RealSenseでは、25位の「Intel RealSense Depth Camera D455」を筆頭に、45位、50位、75位、94位、95位、Luxonis OAK-Dでは56位の「Luxonis OAK-D-Pro W(広角)」を筆頭に72位、74位、79位、85位、92位と各機種がランクインしています。ロボットの目として使われたり、移動体のカメラとして使われたり、用途はさまざまですが、機種の多さで対応しています。
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牧井氏
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深度カメラって少し前はメイカーの方が買って遊んでいたイメージがありましたけど、最近の売れ方を見ると、研究とか、業務とか、プロユースで売れていくイメージです。安いものより、高くても用途を絞り込んだ高機能の製品が売れる傾向にあります。製造する側もその流れに沿ってプロ向けに多用なモデルを出すので、同じブランドのいろいろな機種がランキングされるのだと思います。
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安井氏
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プロユースのものがランキングされる時代になったのを象徴する商品が、35位の「《お取り寄せ商品》TIER IV C1 120 deg カメラ + GMSL2-USB3.0 変換キット」です。これはJetsonなどの開発ボードと組み合わせて使うカメラなのですが、もとは車載HDRカメラ(Automotive HDR Camera)です。製造元のTIER IV(ティアフォー)は自動運転技術を開発している会社です。画像認識という点で都合の良いカメラが見つからず、それなら自分たちで作ってしまえ、ということでできたのがこのC1カメラだそうです。最初からプロユースの製品が、35位にランクインするほど売れたのですから、傾向が変わったのを感じます。
2024年は変革期になりそう
——2024年へ向けて商品動向はどうなりそうでしょうか?
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牧井氏
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AI開発ボードとか高機能カメラとか、用途を絞ったプロユースの商品の動向は注目しています。そういう人たちを満足させる商品も引き続き扱っていきたいですね。一方で、既存のメイカーの方にも注目してもらえるような新規性のある商品を見つけていきたいとも思います。
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安井氏
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Raspberry PiもArduinoも2024年には代替わりしていくし、M5Stackも新製品を出し続けると思うので、動向を見ながら在庫を切らさないようにやっていきたいと思います。
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牧井氏
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気になるのは今の円安ですね。1万円前後のものが一気に値段が上がって、1万5000円とかになってしまって、それで買いにくくなっているというのは多分にあると思います。為替はどうしようもないので、たとえば「サービスや製品の両面でお客さんが満足できるように質を上げる」、「より良いものをより安く見つける」などといった努力をするしかないなとは思っています。
編集部まとめ
以上、2023年のスイッチサイエンス売上ランキングベスト100を見ながら語ってもらった。定番商品は堅調ながら、電子部品の世界にも、高価格で高機能の商品と、手頃な価格で、ある程度の機能を満たす商品という二極化が進んでいきそうな気配を感じた。2024年のランキングにはどんな変動があるだろうか? また一年、動向を注視したい。
(fabcrossより転載)
関連情報
スイッチサイエンス年間売上ランキングベスト100に見る 2023年電子部品ヒット商品のトレンド(掲載元: fabcross)
ライタープロフィール
金子 茂
エディトリアルサービスSHIGS(シーグス)代表。元・板橋区教育科学館館長。
学習研究社(現・学研ホールディングス)で「○年の科学」「○年の学習」の編集長、「大人の科学マガジン」創刊編集長などを歴任。2014年に独立して現職に就く。
科学教材の企画製作、教育関連書籍の編集などに携わる。小中学校でのプログラミング教育、STEAM教育に関する記事も多数執筆。