コールドスプレーにより核融合炉を強化する手法を開発

Photo by Joel Hallberg

ウィスコンシン大学マディソン校(UW-Madison)の研究チームが、スプレーコーティング技術を用いて、核融合炉内の厳しい条件に耐える新しい炉壁材料を開発した。コールドスプレーを用いて、プラズマ対向炉壁表面に高融点金属であるタンタルを被覆したものであり、核融合炉内に相当する極限的な条件において、優れた材料耐性を示すとともに、核融合出力を損失させる中性水素同位体粒子を効率的に捕捉できることを実験的に確認した。修理や保全が容易であり、効率的でコンパクトな核融合炉の実現に寄与するものと期待されており、研究成果が2023年10月17日に『Physica Scripta』誌に公開されている。

軽元素の原子核を衝突させて大きなエネルギーを発生させる核融合は、資源が海水中に豊富に存在し、CO2を排出しないことから、エネルギー問題と環境問題を根本的に解決するものとして期待されている。核融合炉では水素同位体イオンから構成されるプラズマが極めて高温に加熱され、プラズマ中の原子核が互いに衝突して融合することによりエネルギーを発生させる。だが、一部の水素同位体イオンは中性化してプラズマから漏出し、プラズマ出力を損失させるため、高温プラズマを維持して効率的な小型核融合炉を実現するための障害となっている。研究チームは、簡便で実用性の高いコールドスプレーコーティングの、原子力分野における実用化を推進しており、コールドスプレーを利用して水素同位体中性粒子を捕捉できる、プラズマ対向炉壁の開発にチャレンジした。

研究チームはコーティング粒子として、超高温に耐え、本質的に水素を良く吸収するタンタル(Ta)を選択した。コールドスプレーによってTa粒子を超音速で316Lステンレス鋼表面に噴射し、衝突によってパンケーキ状に平坦になったTa粒子により、全表面が被覆された試験片を得た。フランスのエクス=マルセイユ大学およびドイツのエネルギー気候研究所の施設において、このTaコーティングされた試験片に重水素プラズマを照射することで、核融合炉内に相当する極限的な条件における材料特性を試験した。その結果、耐エロージョン特性を含む全般的な優れた材料耐性を持つとともに、被膜形成過程においても粒子間のナノスケール境界が維持され、重水素粒子の捕捉を促進するため、バルク状のTaよりも3倍多い重水素を吸収することを発見した。これによって、プラズマ出力の損失を防止する可能性を確認した。更に、重水素プラズマ照射後に、材料を1100K(約827℃)に加熱することで捕捉した重水素を脱ガスすることが可能で、材料を再生して再使用できることも判った。

「コールドスプレーの大きなメリットの1つは、現場において新しいコーティングを実施することで部品修理を容易に行える」と、研究チームは語る。現在、次世代核融合発電のプロトタイプを目標にUW-MadisonとMITなどが共同推進している、ウィスコンシンHTS軸対象ミラープロジェクトに採用する計画であり、新たな合金設計や特許化も進めている。

関連情報

Newly developed material gulps down hydrogen, spits it out, protects fusion reactor walls

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