ノースカロライナ州立大学およびアメリカ国勢調査局は2023年11月22日、胎児期の大気中鉛濃度が長期的に個人に及ぼす経済的・社会的影響についての研究結果を発表した。研究によると、1970年に改正された大気浄化法により、アメリカ人の平均生涯収入は2万1400ドル(約310万円)増加したという。
胎児期や幼児期の鉛への曝露は神経系の発達に悪影響を及ぼし、例え少量であっても、IQ や学校のテストのスコアで測定される認知能力を低下させることがこれまでの研究でわかっている。アメリカでは1970年に大気浄化法が大幅改正されたことにより、特に自動車産業での有鉛ガソリン撤廃が進み、大気中の鉛濃度が低下した。
研究では国勢調査の結果を用いて、国民一人ひとりの経済的・社会的データとそれぞれの出生地における胎児期9カ月間の鉛濃度を比較。分析の結果、大気浄化法修正案の可決により、1975~1985年の間に大気中鉛濃度が低減したことで、生涯年収が平均で3.5%、額にして2万1400ドル増加したことが分かった。胎児期の鉛濃度の高さが、成人後の障害や公的扶助の受給の増加、雇用の減少につながるためだという。また、大気浄化法の経済的影響は2020年時点の累計額で4兆2300億ドル(約597兆円)。2020年単独では2520億ドル(約36兆円)、つまりGDPの1.2%に相当し、今なお毎年1%以上の恩恵が続いているという推測を示している。
本研究の著者は、これらの結果が1970および1980年代における、有鉛ガソリンの段階的廃止が長期的な利益をもたらし続けていることを示しているとし、飲料水や古い塗料に含まれる鉛についても、除去していくことが重要だとコメントしている。
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