現実世界の部屋よりも広いVR空間を歩き回ることができる新システムを開発 東北大学

東北大学電気通信研究所の藤田和之助教らの研究グループは2024年3月14日、チャルマース工科大学、ベルゲン大学と共同で、現実世界の部屋よりも広いバーチャルリアリティ(VR)空間を歩き回ることができる独自の新システム「RedirectedDoors+」を発表した。VR空間内で複数のドアを連続的に開けて歩行する際に、ユーザーの歩く方向を「だまし」、物理空間の壁にぶつからないように誘導するとともに、ドアノブのリアルな触覚を再現する。

ユーザーが実際に歩行することで、VR空間内を探索する「ルームスケールVR」体験が注目されている。高い臨場感をもたらすため、幅広い分野での応用が期待されているが、体験のために大きな物理空間を必要とすることや、VR空間内でユーザーが触れたモノに対する触覚のフィードバックが得られないことが大きな障壁となっていた。

研究グループは、VR空間内での「ドアを開ける」行為に着目し、ドアを開ける際のリダイレクションと触覚フィードバック提示を実現することで、2つの障壁を同時に解消する「RedirectedDoors」と、それを拡張したRedirectedDoors+を開発した。

RedirectedDoorsでは、VR空間内でユーザーがドアを開けて前方に進む際に気づかれない程度にVR空間全体を回転させ、進行方向をだますリダイレクション手法を提案し、ユーザースタディを実施。その結果、既存手法よりも進行方向を大きくだませる(1度の開扉につき平均54.7度)ことや、触覚フィードバックが体験のリアリティ向上につながることがわかった。

しかし、この研究の対象は、特定位置に固定されたドアを1度通過する動作のみで、ユーザーが歩き回るルームスケールVR体験には対応していなかった。

そこで、RedirectedDoors+では、大幅にRedirectedDoorsを拡張した。複数のドアを連続的に開けながら、VR空間内を歩行する体験での触覚フィードバックを提示するとともに、ユーザーの進行方向を限られた物理空間内に収まるようにだまして誘導できる。

RedirectedDoorsの概要 (a) ドアロボット2台がユーザーの周囲で動き回る。(b)(c) ドアを開ける動作を通して、ユーザーの進行方向を誘導する。

RedirectedDoors+のシステムフロー。ユーザーの歩行やドアを開ける動作に応じて、ロボットの目的地とその経路をリアルタイムに決定する。

このシステムでは、ドアノブの触覚フィードバックを提示するロボットやアルゴリズムを開発。全方位自走式ロボットの上にドアノブ型の装置を搭載した「ドアロボット」、このロボット複数台の配置を適応的に決定する「ロボット配置アルゴリズム」、ユーザーの歩行経路が物理空間内に収まるようユーザーを誘導する「ユーザステアリングアルゴリズム」を開発した。

性能評価のシミュレーションスタディでは、形状の異なる6種類のVR環境で、歩行体験に必要な物理空間のサイズ(歩行軌跡が収まる長方形の対角線長)が平均74%まで圧縮できた。また、実環境で安全に動作した。

シミュレーションスタディの結果。上:VR環境(平面図)での歩行軌跡、下:本システムによるリダイレクションが適用された物理空間での歩行軌跡

開発したシステムは、エンターテインメント以外にも、VR職業トレーニング、建築、都市計画などさまざまな分野への応用が期待され、今後はこれらの応用シナリオでの実証を目指す。開扉の順序をシステムが既知であることを前提としているが、今後ユーザーが制約なく自由に歩行する場合への対応や、さまざまなVR空間内の触覚インタラクションにも対応した汎用的なリダイレクションシステムの実現を目指す。

関連情報

無限に広がるバーチャルリアリティ空間を狭い部屋で歩… | プレスリリース・研究成果 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-

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