- 2024-3-29
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物質・材料研究機構(NIMS)は2024年3月28日、名古屋大学と共同で、短時間の熱処理だけで、鉄基アモルファス合金が、電流と熱流をそれぞれ直交する方向に変換できる、“横型”熱電変換材料になることを実証したと発表した。横型熱電変換材料の開発で、微細組織のエンジニアリングが重要だと示した初めての例となる。
トランスやモーター用の軟磁性材料として広く利用されている鉄基アモルファス合金は、安価な元素のみから構成され、量産化や大面積化でき、自在に曲げ加工できるほどの高いフレキシビリティを有する。特に、横型熱電効果の一つで、磁性材料では磁化と垂直な方向に温度差を付けた際に、磁化と温度勾配の両方に直交した方向に電流が発生する「異常ネルンスト効果」に関する研究が活発化しているが、実用化には大きな壁が存在している。
異常ネルンスト係数向上のための磁性材料開発は、電子構造に着目した新物質設計や組成依存性の検証などが主流であり、材料中の微細組織に着目した研究は進められていなかった。磁性材料における横型熱電効果を用いれば、電流と熱流がそれぞれ平行な方向に変換される縦型熱電効果と比べ、熱電変換素子の構造が簡略化され、素子の汎用性や耐久性の向上、低コスト化につながると期待されている。
研究チームは、液体急冷法で、85%程度が安価な鉄から構成される磁性アモルファス合金を作製し、これを3分間熱処理するだけで、材料の平均組成を変えることなく、大幅に異常ネルンスト係数が向上することを実証した。
三次元アトムプローブ法で、さまざまな温度で熱処理した合金中の原子位置と元素種を同定したところ、熱処理前は均質なアモルファス合金が、380℃で加熱した場合にはナノスケールの銅析出物が生じていた。異常ネルンスト効果の増大には、これが寄与したと考えられる。
今回作製した鉄基アモルファス合金は、市販されている軟磁性合金と同様に非常に高いフレキシビリティを有する。最大の異常ネルンスト係数を示した試料も、自在な曲げ加工に対応する。しかし、熱処理温度をさらに上げると、フレキシビリティが失われると共に異常ネルンスト係数も減少することがわかった。
最適温度(380℃)で熱処理した際に得られた異常ネルンスト係数は、これまで知られていた磁性アモルファス合金の中で最高値を示した。大きな異常ネルンスト効果は、高価な貴金属を含む磁性体やトポロジカル物質と呼ばれる特殊な電子構造を有する磁性体でのみ生じると考えられていたが、微細組織の設計、最適化により、安価な元素のみで構成されているアモルファス合金も、優れた異常ネルンスト材料になり得ることがわかった。
性能向上には、合金中に生じたナノサイズの銅析出物が重要な役割を担っている。この結果は、材料の電子構造や組成だけでなく、微細組織の設計、制御も、異常ネルンスト係数の向上に重要であることを示している。
開発した磁性材料は、容易に量産化や大面積化でき、自在に曲げられる。今後、さらに異常ネルンスト係数が大きい磁性材料を微細組織制御で開発し、発電技術や熱センシング技術への応用展開を目指す。