- 2024-4-12
- REPORT, 機械系, 電気・電子系
- 3Dプリンター, 3Dモデル, 8to3エンコーダー, API, ESP32, Fusion 360, HD66732, LM4049, Wi-Fi, ガジェット, ディスプレイモジュール, プリント基板, マイコン, モバイルバッテリー, 工作, 液晶モニター, 転載, 電子工作
最近では、スマートフォンがあれば何でもできてしまう。デジカメがなくても写真が撮れるし、ラジカセがなくても音楽が聴ける。でもこの「1つで何でもできる」ことによって失われてしまった浪漫はあると思う。
例えば天気予報。昔は新聞やテレビ、ラジオでチェックするしかなかったが、いまやほとんどの人がスマホを使って天気予報のアプリやサイトを見ているだろう。
でもふと考えてしまう。もしスマホが存在しないまま現代になっていたとしたら……? 何かのきっかけで、我々の記憶からスマホという存在が消えてしまったら……?きっと「天気予報を見るためだけの専用ガジェット」が存在したと思うのだ。
誕生! 天気予報専用ガジェット
我々は、生まれていたはずの浪漫を自らの手で潰していたのかもしれない。天気予報が分かるだけの専用ガジェット、もしそれが存在していたら……いろんな家電メーカーが競って新製品を発売していたとしたら……きっと面白いことになっていたに違いないのだ。
そんな想いから、「天気予報専用ガジェット」を作るに至った。
これこそが失われた未来。いや、別に来る必要のなかった未来かもしれないが、私なんかはたくさん並んだ物理ボタンに浪漫を感じてしまうのだ。
次はこの「天気予報専用ガジェット」の使い方を説明していこう。
天気予報専用ガジェットで知ろう! 全国の天気予報
このガジェットはWi-Fiに接続できるようになっている。電源を入れると自動でインターネットから天気予報を取得し、液晶モニターに表示できる。
今でも天気予報を表示できる時計はあるものの、そちらはあくまで時計である。専用ガジェットは一味違うんだぞ! というところを見せつけるために作った独自のインターフェース、それが日本地図を使ったUIである。
果たして、ここまで全国の天気を切り替えしやすくする必要はあるのだろうか? とは思いつつも、専用ガジェットを名乗るからには、これくらいのUIがあって然るべきだろう。
最後に、本体右下にあるオレンジのボタンを紹介しよう。
このボタンを押すと、「今日」「明日」「明後日」の天気予報を自由に切り替え可能だ。
以上が、天気予報専用ガジェットの全機能である。
本当に天気予報を表示することしかできない、潔い機器なのだ。ただその代わり、各地の天気をボタン1つで切り替え可能だし、明日、明後日の天気も簡単操作で見られる。
スマホでポチポチするよりも高速で見られるので、手早く各地の天気を知りたい人にとっては有用であろう。これぞ専用端末の利点!
表示される情報は、「地域」「日付」「天気予報の文字+イラスト」「降水確率」「最低気温/最高気温」といった最低限のもののみとなっている。
詳しくは後述するが、液晶には120×52ドットという低解像度のモノクロディスプレイを使用。リッチな表示もいいけれど、やはり味があるのはこういったレガシーな技術であろう。
デザインに関しては素人であるが、できるだけかっこいいものを、機能性とデザイン性を両立させて作ったつもりである。
次は、どのようにこのガジェットを作ったのかについて紹介したい。
天気予報専用ガジェットを設計する
かわいい路線で行くのか、かっこいい路線で行くのかで悩んだ末、できるだけ未来感のあるサイバーなデザインを目指してみることにした。これがサイバーなのか? については諸説あると思うが、精一杯がんばった結果である。
配色は太陽と雲をイメージして、オレンジと白でまとめてみた。
メインのマイコンには、Wi-Fi機能がある「ESP32」を使用している。このマイコン1つで、次のような一連の動作を行っている。
- 電源がONになると自動でインターネットに接続
- ボタン操作を受けると、天気予報のAPI(こちらを使用)を叩いて天気情報を取得
- 取得した天気情報を液晶に表示する
表示部には、グラフィックと漢字が表示できる「LM4049」というディスプレイモジュールを使用した。
この液晶には、漢字フォントを含む「HD66732(HITACHI製)」という液晶コントローラーが搭載されており、簡単に日本語を表示できる。ほとんどのキャラクター液晶は英字のみなので、漢字表示ができるこのパーツは、天気予報ガジェットにはうってつけなのであった。
ただ注意点は、使用ユーザーがほとんどいないためか、ArduinoやESP32用のドライバーソフトを公開している人がいないところだ(少なくとも私が検索した範囲では見つけられなかった)。なので、仕様書を見ながら自分で制御コードを書かなければならない。
漢字を表示するための文字コードも独自のものなので、UTF-8→SJIS→JISに変換したあとで、さらに独自の文字コードに変換する必要がある。そこが今回の制作で一番苦労したポイントであった。
液晶は20ピンで、さらに操作用のボタンが計15個ある。最初はユニバーサル基板上に手作業で配線するつもりであったが、途中から「これはきつい作業だぞ」と感じてきたので、急ごしらえでプリント基板を制作することにした。
ただ、本当に急いで数時間で設計したので、当然のように配線が間違っているわけで。
まだ簡単に修正できる内容でよかった。
ちなみにこの空中配線で抵抗が付いているICは、8つの入力を3bitの信号に変換できる「8to3エンコーダー」である。今回はボタンが15個あるので、そのままだとESP32の入力ピン数が足りない。そこで、このICを2つ使うことで、15個のボタン操作を6つのピンで受けられるようにしてあるのだ。
こういうのを組み立てるときが一番ドキドキすると共に、ワクワクもする。
これは裏話だけれど、工作系の記事を書くときは組み立てる過程をすべて撮影しておかなければならない。なので、上手く完成するか分からない状態でも、律儀に1工程ずつ写真を撮っていく。すると、さくっと組み立てる場合に比べて、工程ごとの緊張感が増してくるのだ。
「わざわざ撮影してるけど、本当に上手くいくのだろうか……」「あ、上手くいった!」「上手くいくのだろうか……」「あ、上手くいった!」の繰り返しである。感情の起伏が大きくなるので、完成時の喜びも大きい。後から見返すときの参考にもなるため、組み立てながら撮影するのはお勧めである。
こうして出来上がったのが「天気予報専用ガジェット」なのである。
いつでも、どこでも、天気予報をゲット
モバイルバッテリーで動くように作ったので、外に持ち出して使用することもできる。インターネットには、スマホのテザリングで接続している。わざわざテザリングするくらいなら、最初からスマホアプリで見ればいいじゃないか! という野暮なツッコミは無用である。
外で使っていると、遠く離れた地域の天気予報を見ることがとても面白く感じた。このとき私は大阪にいたのだが、別の地域の天気も見てみよう。
降水確率が90%で、雪だるまのマークも付いていて寒そうだ。同じ日本にいながらも、気候の違う地域に思いを馳せる。
このときは3月3日で、大阪の最高気温は10℃前後であった。さすが那覇、今日は19℃もあるのか~と、暖かい南国に思いを馳せてしまった。
アプリで全国の天気を見ても何とも思わないのだが、このガジェットを使うと妙に他の地域との比較が楽しく感じる。特定の地域のボタンを押す、という動作があるせいだろうか。タッチパネルよりもボタンの方が、「自らの意思で行動し選択する」という思いの強さがあり、それが感情に現れるのかもしれない。
もしもスマホがなかったら……みんなこういう専用端末を持ち出して、街で天気予報を確認していたのかもしれない。そんな未来があったかも? と想像するだけで楽しい気分になる。
以前に作った「Twitter専用ガジェット」と合わせて、「来なかった未来の三種の神器」の一つとしたい。あと一つは何だろう? これから考えていこう。
(fabcrossより転載)
関連情報
もし皆の記憶からスマホが消えた世界だったら——天気予報専用ガジェットを作る(掲載元: fabcross)
ライタープロフィール
斎藤 公輔(NEKOPLA)
散歩が趣味の組込みエンジニア。主に「日常生活で目にするもの」をモチーフにしたガジェット作品を制作し、各種メディアやSNSで発表している。「デイリーポータルZ」などで記事を執筆中。Twitter