科学者ら、ありふれた化学物質から新たなフローバッテリーを開発

/Animation by Sara Levine | Pacific Northwest National Laboratory

アメリカのエネルギー省パシフィックノースウェスト国立研究所(PNNL)の研究チームが、地球上に豊富にある材料を用いて、安全で経済的な水性ベースのレドックスフローバッテリーを開発した。水処理施設などで大量に使われる毒性のないリン酸塩ベースの電解液を用い、鉄の電荷変化に伴う酸化還元反応により充放電させるもので、エネルギー効率として最大容量の98.7%を維持しながら、連続1000回以上の安定した充放電サイクルを示すことが確認された。高価で稀少なバナジウムを用いる既存のフローバッテリーに代わり、出力が一定ではない風力や太陽光などのエネルギー源を電力グリッドに効率的に組み入れることのできる、安全で経済的な大規模エネルギー貯蔵システムに適用できると期待している。研究成果が、2024年3月25日に『Nature Communications』誌に公開されている。

レドックスフローバッテリーは二次電池の一種で、両極には固体電極の代わりに2種類の電解液を用い、別々のタンクから電池セルに流入させ、メンブレン隔膜を通した電荷の移動を通じて、金属の電荷変化-酸化還元反応により充電または放電するものだ。外部の電解質供給タンクが大きければ大きい程、エネルギー貯蔵能力を大規模かつ長期間維持することができる。

特に、気象条件に左右される太陽光発電や風力発電による再生可能エネルギーを、電力グリッドの中で経済的に貯蔵し、必要な時に放電できる大規模な電池としての利用が期待されている。1974年にアメリカ航空宇宙局(NASA)が基本原理を発表し、1980年代から研究が進み、商業化も既に進んでいるが、実用化されているものは高価で稀少なバナジウムを活物質としているため、広汎な展開には限界があると言われている。

研究チームは、常温でpHが中性のマイルドな反応性を有する液体電解質で、鉄イオンの電荷の変化を通してエネルギーを貯蔵できるとともに、地球上で豊富にあり容易に調達できる電解質材料を探索してきた。その結果、陽極液として高濃度の鉄-NTMPA(ニトリロトリ-メチルホスホン酸)を用い、陰極液として鉄シアン化物を用いた組み合わせにおいて、エネルギー効率として最大容量の98.7%を維持しながら、連続1000回以上の安定した充放電サイクルを示すことを確認することに成功した。NTMPAなどのリン酸塩は、水処理プラントにおいて腐食を防止するために一般的に用いられ、商業レベルで大量に入手でき、また肥料や洗剤にも用いられる毒性のない化学物質だ。

大規模電池であるフローバッテリーは、電力グリッドのバックアップ電源として、再生可能エネルギー源からの電力を効率的に貯蔵する脱炭素戦略における柱の1つとなる。開発したフローバッテリーは、大規模化が容易であり、都市部や郊外の消費者に近い地域においても安全性を確保できるという特徴がある。現在のところ、主要な設計指標であるエネルギー密度は最大9Wh/Lであって、既存のバナジウムベースのシステムの半分以下に留まるが、大規模化が容易であることから同じエネルギー出力を供給するのは容易であると、研究チームは説明する。

関連情報

New All-Liquid Iron Flow Battery for Grid Energy Storage | News Release | PNNL
Phosphonate-based iron complex for a cost-effective and long cycling aqueous iron redox flow battery | Nature Communications

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