- 2024-5-17
- 化学・素材系, 技術ニュース
- Sn, TI, TNS合金, β型Ti合金, ω相, カクテル効果, スズ, ハイエントロピー材料, 合金設計, 東北大学, 東北大学金属材料研究所, 生体インプラント材用チタン合金, 生体インプラント用β型Ti合金材料, 研究
東北大学金属材料研究所の岡本範彦准教授、市坪哲教授らは2024年5月16日、スズ(Sn)の添加が、生体インプラント材用チタン(Ti)合金の硬くてもろい欠点を解決する理由を明らかにしたと発表した。Ti元素―β安定化元素(V)―Sn元素間の多体相互作用およびSn原子のアンカー効果が相乗的に働き、ほぼ完全にω(オメガ)相の出現を押さえ込めていることがわかった。
同大学金属材料研究所で生体インプラント材料として開発されたβ型Ti合金(Ti-Nb-Sn合金:TNS合金)は、硬くてもろいω相という準安定相が出現しやすい傾向がある。ω相生成の完全抑制は、Nb(ニオブ)やV(バナジウム)などのβ相安定化元素だけを大量に添加しても困難だが、TNS合金やTi2448合金など生体インプラント材料にSnを添加すると、ω相生成が抑制される。しかし、Sn添加によるω相抑制効果の発現機構は不明な点が残っている。
室温でβ型Ti合金を利用するには、「300℃程度以上で拡散相分離を伴ってTiリッチな相から出現する熱的ω変態」と「低温急冷によって組成変化を伴わずに起こる非熱的ω変態」に注意してω相生成を回避することに加え、体温程度でも無拡散型の等温ω変態が進行し、ナノメートルサイズのω相が出現する「拡散が駆動しないような室温程度の低温度でもω相が生成してしまう無拡散型等温ω変態」モードを回避する必要がある。
こうしたことから、生体内埋込後も持続的に低弾性と高延性が求められるインプラント材料として利用するには、無拡散型等温変態で生成するω相を完全に抑制することが必要不可欠になる。そこで、Ti-V系のモデル合金を対象に、Sn添加が相変態挙動と相安定性に与える影響を実験と理論の両側面から系統的に調査した。
3%のSnをTi-21%V母合金に添加するだけで、室温付近で徐々に進行する無拡散型等温ω変態が抑制されることが実験的に判明した。また、Sn添加により、内部摩擦ピークが減弱したことから、Sn添加で無拡散型等温ω変態の起点となるβ不安定な局所領域自体が消失することがわかった。300℃付近で相分離(原子拡散)を伴い進行する熱的(等温)ω変態、温度変化に伴い可逆的に生じる非熱的ω変態も抑制する。
VやNbなどの通常のβ安定化元素のω抑制効果の届く範囲は限られている(局所的効果)が、Snを共添加すると、ω抑制効果が長範囲に働き、非熱的ω変態や無拡散型等温ωが完全に抑制されていると考えられる。
一方、熱的(等温)ω変態は、β相の相分離(原子拡散を伴う)によってβ安定化元素が少ないβ不安定な領域が形成される。ω変態することでこうした領域が生じるが、Snの共添加で、約800℃以下でTiと相分離傾向にあるV(やNb)を相分離させない効果があることがわかった。
その理由は二つあり、一つは、V等をSnが引き付ける(アンカー効果)ことで、相分離が抑制されていることが挙げられる。次に、Sn原子周りでのCrやMoなどの拡散パスが阻害されることで原子拡散が遅滞する(ラビリンス効果)ためだと考えられる。
今回の研究では、電子論的観点からの多体相互作用の説明が欠けていることから、今後明らかにしていく必要がある。生体用Ti合金における多体間相互作用は、ハイエントロピー材料でよく見られるカクテル効果(各元素の特徴の線形結合では説明できない効果)を発現している好例であり、合金設計において、多体(多元素)間相互作用が重要であることを示している。
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