薄膜転写技術で異種材料結晶をシリコン光回路上に集積――マイクロトランスファープリンティング技術を開発 東工大と産総研

東京工業大学は2023年8月10日、産業技術総合研究所(AIST)と共同で、薄膜転写技術を用いて異種材料結晶を微小な薄膜シールに加工し、シリコン光回路上に集積する「マイクロトランスファープリンティング」技術を発表した。この技術により、従来研究と比較して回路面積が10分の1以下となる、超小型の光アイソレータの作製に成功している。

近年のデジタルコヒーレント光伝送技術は、レーザー光源に対する要求基準が厳しくなっており、光アイソレータと呼ばれる反射戻り光をカットするための機能性光素子の集積化に注目が集まっている。しかし、高性能な光アイソレータの構成に必要な結晶材料が特殊で、動作に欠かせない磁気光学効果を発現するイットリウム鉄ガーネットという結晶を組み込む必要があった。

従来、結晶構造が大きく異なる結晶同士を密接に一体化することは困難とされており、1つの光回路にさまざまな光学材料結晶を組み込んだ多機能で高性能な光集積回路を実現する障壁となっていた。研究グループの先行研究でも、集積密度の点からシリコンフォトニクス技術と整合性が得られず、重要な課題として認識されていた。

研究では、マイクロトランスファープリンティング技術を開発し、回路面積が従来研究と比べ10分の1以下となる光アイソレータの作製に世界で初めて成功した。まず、別の種基板(SGGG)上に、結晶成長したセリウム置換イットリウム鉄ガーネット(Ce:YIG)結晶を薄膜化し、中空に保持されたシール構造に加工する技術を開発した。

次に、予め形状加工された高分子エラストマーフィルムに、開発した縦800μm、横50μm、厚さ1μm以下の薄膜シールを貼り付けてピックアップし、シリコンウエハー上に形成した光回路の任意の領域に高い位置合わせ精度で転写する技術を開発した。

マッハツェンダー干渉計と呼ばれる光回路の一部に、このCe:YIG結晶の薄膜シールを転写し、光アイソレータを作製。光通信で用いられる近赤外領域の光を入力して光出力特性を測定したところ、順逆方向遮断比96%(14dB)の良好な光学特性が得られた。

(a)磁気光学結晶の微小薄膜シール(b)作製したシリコン光回路上の光アイソレータ

今回、世界で初めて薄膜の磁気光学結晶を集積した光アイソレータの作製に成功した。この研究成果により、光送受信機のための光トランシーバチップの小型化、高性能化が期待される。

薄膜転写技術は多くの高機能材料に適用でき、シリコンを光回路の集積プラットフォームとした、これらの異種材料結晶を集積した高機能で高性能な次世代光集積回路の実現が期待される。今後、光アイソレータとしての光学特性をさらに引き上げるほか、実用化や量産化へ向けて研究開発していく。

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薄膜転写による異種材料結晶の集積技術を開発 光アイソレータの回路面積を1/10以下に | 東工大ニュース | 東京工業大学

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