高温や極寒の宇宙環境に耐える熱制御技術を開発――月面探査車での実用化に期待 名古屋大学ら

名古屋大学は2024年6月11日、同大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)、豊橋技術科学大学の共同研究グループが、高温や極寒の宇宙環境に耐える熱制御技術を開発したと発表した。

近年、月探査における国際的な開発競争が激しさを増している。中でも、月面ローバ(探査車)は、長期的な月探査において中心的な役割を担っている。

月面では2週間ごとに昼夜が入れ替わり、昼の太陽光が当たる時は100℃、夜で陰になる時は−190℃と大きな温度差が生じる。このため、月面ローバには昼間の放熱、夜間の断熱が求められ、これらを切り替えられるヒートスイッチ技術が必須となっている。また、月面ローバの主なエネルギー資源は、地球から持ち込んだ電力や太陽光だ。使用できるエネルギーが限られるため、省エネ化も求められる。

同研究グループは今回、無電力で高効率に放熱できるループヒートパイプ(LHP)の液管部に、冷媒の流動を低消費電力で制御できる電気流体力学(EHD)ポンプを組み込んだ。

今回開発した熱制御デバイス

昼はEHDポンプがオフとなっており、LHPは通常動作する。月面ローバ内部から生じた熱を蒸気でラジエーターに送り、ラジエーターからふく射で宇宙空間に放熱する。蒸気は液に凝縮し、月面ローバ内部の蒸発器に戻って再び吸熱する。蒸発器の多孔体で生じる毛細管力によって循環するため、電力が不要となっている。

一方、夜はEHDポンプによりLHPの流れとは逆方向に圧力を加え、LHPの流動を止めて断熱する。JAXAが有するLHPにEHDポンプを組み込んで実験室環境で試験を実施したところ、EHDポンプが動作することでLHPの動作が停止することを確認した。

今回開発したデバイスを搭載した月面ローバーの熱制御イメージ

数値シミュレーションによりEHDポンプの電極形状を選定、設計し、製作したEHDポンプの性能を評価。EHDポンプによりLHPの動作が停止することに加えて、EHDポンプを手動バルブに置き換えた際の動作挙動の違いについても実証している。

LHPのリザーバーにヒーターまたは熱電素子を付けてLHPを制御する「ヒーター制御」や、圧力や温度によって受動的に開閉するバルブをLHPの蒸気管に取り付けてLHPを制御する「受動バルブ制御」と比較した。ヒーター制御は、軽量で可動部がなく、LHPの圧力損失への影響がないのがメリットとなる。一方で、消費電力が数Wオーダーとなる。受動バルブは電気が不要なため消費電力が生じない。一方で可動部を有するほか、バルブ内の流路が小さいため圧力損失が比較的高くなる。

今回開発した技術は可動部を有さない。圧力損失は受動バルブより低く、LHPを発生させられる最大圧力の0.5%程度となっている。また、消費電力も30mW以下で、ヒーター制御より小さくなっている。同技術は、熱伝達率が高く、液体強制対流や沸騰/凝縮などの相変化を伴う熱輸送に適用可能。無重力下での新しい熱流体制御技術としての実用化が見込まれる。

各種流動における熱伝達

今後は、月面ローバへの実搭載に向けて、月探査で想定されるさまざまな環境での試験の実施やデバイスの改良が期待される。

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