MIT、飲料水中の鉛濃度を検出できるセンサーチップを開発

Credits:Image: Jia Xu Brian Sia

世界保健機関(WHO)の推計によると、世界で2億4000万人が人体に有毒な濃度の鉛を含む飲料水を利用している。鉛は脳の発達に影響を与えたり、先天性異常、神経や心臓などさまざまな器官の障害を誘発したりする可能性がある。

マサチューセッツ工科大学、南洋理工大学、複数の企業が参加した国際共同研究チームは、水中の鉛濃度を高感度に検出、測定する小型で安価な技術を開発した。研究成果は、『Nature Communications』誌に2024年5月14日付で公開されている。

アメリカでは飲料水に含まれる鉛濃度は15ppb(0.015mg/L)と定められている(日本は0.01mg/L以下)。現在、この濃度の鉛を検出するには、高価で大型な装置である誘導結合プラズマ質量分析器(ICP-MS)を用いて、数日間かけて測定するしかない。鉛を検出する他の方法として試験紙を利用する手法があるが、この方法では鉛の濃度はわからず、その存在有無を調べることしかできない。

研究チームが開発した技術はチップベースの検出器で、1ppb(0.001mg/L)という低濃度の鉛を高精度に検出することが可能だ。必要なのはわずか1滴の水で、ほぼ瞬時に定量的測定ができる。

この技術は、特定のイオンと選択的に結合する「クラウンエーテル」という環状エーテル分子のユニークな特徴を利用したものだ。一番の課題は、クラウンエーテル分子を、光を用いて計測するフォトニックチップ表面に結合させる方法だったが、長年の努力の末、Fischerエステル化反応によりクラウンエーテル分子を結合することができた。

作製したチップは、pH6~8の水で機能する。この酸性度は、ほとんどの環境由来の水をカバーしている。さらに、水道水だけでなく海水も測定することが可能だ。

このチップを実用的な携帯型デバイスに組み込むには、機械設計や光学設計などさらなる研究が必要だ。時間はかかるが基本的なコンセプトは単純であり、研究チームは2~3年以内の商業展開も可能だとしている。

また、クラウンエーテルの種類を変えることで、鉛だけでなくカドミウム、銅、リチウム、バリウム、セシウム、ラジウムなどの水中汚染物質の検出にも応用できるという。交換可能なカートリッジにすれば、異なる元素を検出することが可能となる。

関連情報

Scientists develop an affordable sensor for lead contamination | MIT News | Massachusetts Institute of Technology

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