- 2024-6-28
- 化学・素材系, 技術ニュース
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産業技術総合研究所(産総研)触媒化学融合研究センターは2024年6月27日、高活性および高選択性を実現する金属ナノ粒子触媒と、連続生産フロープロセス技術による環境に優しい有機合成法を発表した。世界で初めて水素を還元剤として用いて、さまざまな機能性化学品合成で鍵となるロイコキニザリン類を触媒的に合成した。
従来のロイコキニザリン合成法では、1,4-ジヒドロキシアントラキノン(キニザリン)から化学量論量の金属を含む還元剤と酸や塩基を用いるため、その過程で大量の金属含有廃棄物や毒性のある廃棄物が発生することに加え、中和が必要だった。
今回開発した手法は、クリーンな原料であるほぼ常圧の水素を還元剤として用いて、原料(1,4-ジヒドロキシアントラキノン)から触媒的にほぼ純粋(純度>99%)なロイコキニザリンを合成できる。その過程で原子効率100%を実現するため、環境に優しい有機合となる。固体触媒を充填したカラムに、水素と原料を含む溶液を同時に通過させ、連続的にロイコキニザリンを得ている。
また、ロイコキニザリン合成反応における高い活性と選択性の発現に、新たに開発した固体触媒中の白金とニッケルからなる二元金属ナノ粒子構造が重要であることを明らかにした。さまざまな分析の結果、今回開発した触媒中の白金は主に0価だが、ニッケルは酸化物の状態で触媒担体中の近接場に存在していた。
このような異なる酸化状態にある二種類の金属種が電子的に影響を及ぼし合ったり、協奏的に作用することで、高い活性と選択性を引き出したと考えられる。
ロイコキニザリンは、さまざまな試薬と反応させて、多様な機能性化学品の原料となるアントラキノン化合物へ変換できる。そこで、今回開発したロイコキニザリンの連続生産プロセスを、ロイコキニザリンのアントラキノン化合物への変換反応と連結することで、多段階反応を実現する連続生産フロープロセスの開発を目指した。
前段のロイコキニザリンの連続生産フロープロセスでは、原料が低溶解性のため低濃度条件が必要となるが、後段のロイコキニザリンをアントラキノン化合物へ変換するプロセスは、二分子反応であるため高濃度、高温条件が必要となる。
そこで、低沸点溶媒中で合成した低濃度のロイコキニザリン溶液から低沸点溶媒を留去し、高沸点溶媒による高濃度溶液に連続的に置換できる連続分離/回収モジュールを開発。これら二つの連続生産フロープロセスを連結でき、アントラキノン化合物を最大90%を超える高収率で合成できることを実証した。
さらに、この連続分離/回収モジュールは、ほぼ純粋な低沸点溶媒を回収でき、前段のロイコキニザリンの連続生産フロープロセスにリサイクルできた。
今後、機能性化学品の大量合成の実証や、実生産による社会実装を目指す。また、触媒中の金属の組み合わせで反応活性や選択性が制御できる、二元金属ナノ粒子触媒構築法を他の触媒的有機合成反応開発に展開する。