- 2024-7-17
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日本電信電話(NTT)および岡山大学は2024年7月16日、トポロジーの原理を利用したギガヘルツ超音波回路を開発したと発表した。スマートフォンやIoT(モノのインターネット)デバイスなどに向けた超音波フィルターの小型化、高性能化に寄与することが期待される。
スマートフォンなどの無線通信デバイスでは、必要な信号のみを抽出して受信すべく、超音波フィルターが用いられている。今後のさらなる製品開発に伴い、より多くのフィルター搭載が求められるとみられるため、フィルターの小型化が重要となる。
小型化にあたっては、振動を細い経路(導波路)に閉じ込めて任意の方向に導くことができる、超音波回路が必要となる。一方で、超音波は曲げることが難しく、急な方向変化は後方反射につながるため、微細な超音波回路の形成が困難となっていた。
NTTと岡山大学は今回、数学の理論であるトポロジー(空間の性質や物体の形状を研究する数学の一分野)を用いて、ギガヘルツ超音波の後方への反射を抑えて伝搬できる「トポロジカル超音波回路」を開発した。
岡山大学が有する音響トポロジカル構造の設計に関する知見を基に、NTTが半導体薄膜に3回の回転対称性を有する孔を規則正しく並べた、二次元周期弾性体からなる超音波回路を作製した。
有限要素法と呼ばれる数値計算技術を使用し、さまざまな回転角度に対する超音波の分散関係を確認。トポロジカル秩序と導波路の形成が両立する最適な回転角度(5度)を算出した。
従来は、超音波が伝わる導波路の側壁から生じる反射を避けるべく、半径100μm以上の大きなリング構造が必要だった。今回の研究では、トポロジカル構造を用いることで、半径10μm程度の微小な超音波リングでも反射の影響が抑制可能となっている。
左回りまたは右回りに5度傾けた周期孔からなる導波路構造のエッジに外部から超音波を加えると、互いに反対方向に回転する「バレー擬スピン」が発生。エッジに沿って一方向に進む超音波伝搬が生じる。
この超音波伝搬は、「バレー擬スピン依存伝導」と呼ばれる。トポロジカル秩序によって保護された安定的な進行波だ。
急な曲がり角でも後方への反射が生じず、エッジの形状に沿って滑らかに伝搬する。この構造を用いてギガヘルツ超音波フィルターを作製し、基本動作を実証した。
両者は今後、磁性体を導入することで、外部磁場で超音波を動的に制御可能な技術の確立を目指す。
ギガヘルツ超音波の空間的かつ高速な制御が可能となれば、増幅器や周波数変換器といった無線通信デバイスに求められる高周波アナログ演算処理を、超音波を用いて同一チップ上で処理可能となる。
超音波フィルターと電子部品間の基板接続や圧電変換が不要となるため、アンテナ部のさらなる小型化や省エネルギー化に寄与することが期待される。