実用レベルの酸化物薄膜トランジスタを発表――超大型8K有機ELテレビ開発を後押し 北海道大学と高知工科大学

北海道大学は2024年8月7日、同大学電子科学研究所の研究グループが高知工科大学と共同で、従来比10倍の性能を示す実用レベルの酸化物薄膜トランジスタを発表した。安定性を大きく改良しており、次世代の超大型8K有機ELテレビの開発を後押しする成果だとしている。

現在商品化されている有機ELテレビや、スマートフォンの画面を駆動するための薄膜トランジスタ(TFT)用の活性層材料として、酸化物半導体であるアモルファスInGaZnO4(a-IGZO)が使用されている。

IGZO-TFTの電子移動度は5~10cm2/Vs程度だが、次世代の超大型8K有機ELテレビの開発には、電子移動度70cm2/Vs以上のTFTが必要不可欠とされている。研究グループは2022年、電子移動度140cm2/Vsを示すTFTを開発したが、実用化に必要な安定性(信頼性)が極めて悪かった。

気体分⼦が吸着するとTFTの安定性が悪化するモデル。
(左)酸化インジウム薄膜表⾯はカバーされていないので、空気中の気体分⼦(⽔、酸素)が⾃由に吸着・脱離する。
(右)ゲート電圧を20V印加したままにする信頼性試験を⾏うと、気体分⼦の吸着・脱離が起こって、TFTの特性が変化する。

研究グループは、保護膜で活性層薄膜の表面を覆い、空気中の気体が吸着しないようにTFTを作製した。保護膜には、酸化インジウムと同じ結晶構造を持つ酸化イットリウムや酸化エルビウムを含む希土類酸化物を中心に検討した。一般的に用いられている酸化アルミニウムなどの保護膜も比較として試している。

保護膜=酸化イットリウム→エピタキシャル成⻑でガスを吸着させない、保護膜=酸化アルミニウム→アモルファスでガスが吸着するというモデル。
酸化インジウムと酸化イットリウムは原⼦の配列がお互いに良く似ているので、隙間なくピッタリ結合すると期待した。⼀⽅、酸化インジウムと酸化 アルミニウムは原⼦の配列が全く異なるので、隙間だらけの結合になる。

保護膜として、一般的に用いられる酸化ハフニウムや酸化アルミニウムを用いたTFTは、安定性の向上が全く見られなかったが、酸化イットリウムと酸化エルビウムを用いたTFTは、極めて安定性が高く、電子移動度が78cm2/Vsだった。これは、次世代8Kディスプレイの要求を満たしている。

原子配列を電子顕微鏡で観察したところ、酸化インジウムと酸化イットリウムは、原子レベルでピッタリ結合(ヘテロエピタキシャル成長)することがわかった。この結果から、原子レベルで酸化インジウム表面をピッタリ保護することで、気体の吸着/脱離を抑制し、高い電子移動度を保ったまま安定性を大きく改良することに成功した。

研究チームは、現在の画面サイズの4倍の超大型8K有機ELテレビ実現に向けたディスプレイ開発を大きく加速すると期待している。

関連情報

新着情報: 従来比10倍の性能を示す酸化物薄膜トランジスタを実現~次世代の超大型有機ELテレビ開発に必要不可欠なデバイス~(電子科学研究所 助教 曲 勇作)

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