- 2023-11-27
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米メリーランド大学の研究チームが、長距離走行が可能な電気自動車(EV)に向けた、安全でエネルギー貯蔵量が大きく、急速充電可能な電池技術を開発した。
同研究成果は2023年10月25日、「Nature」誌に掲載された。
同研究は、正極と負極、電解質が全て固体からなる全固体電池に関するものだ。現在のEVのほとんどは、リチウムイオン電池(LIB)を搭載している。LIBは大きなエネルギー貯蔵量を持つため、さまざまな用途に利用されているが、可燃性の有機物からなる液体電解質を用いており、発火や有毒ガス発生などの安全上の問題がある。
メリーランド大学のChunsheng Wang教授は、「全固体電池は、高エネルギーと安全性を実現できる次世代電池です。現在のLIB技術は、高エネルギーを達成すると安全性を犠牲にします」と説明した。
全固体電池は、現在の液体電解質を用いたLIBと異なり、不燃性の固体電解質を用いていることから安全であり、次世代のEV用電池として期待されている。しかし、EVが要求する高い容量と充放電速度で全固体電池を作動させると、リチウムの樹木状構造であるデンドライトが負極から正極側に向かって成長し、短絡の危険や電池性能の低下を引き起こす問題がある。
そこで、研究チームは、固体電解質と負極/正極間の電池界面を安定化させるという方法を採用して問題を解決した。同電池構造は、正極側を安定化させるためにフッ素リッチな中間層と、負極側にマグネシウムとビスマスからなる中間層を挿入し、デンドライトの成長抑制に成功した。同技術は、高容量で高速充放電可能な全固体電池の実用化に対する大きな障壁であった課題を取り除いた。
しかし、同技術を商品化するためには、解決すべき課題がまだ残る。まず、電池のエネルギー密度を高めるために、固体電解質層をLIBの電解質と同程度の厚さにする必要がある。また、基本部品のコストが高いことも課題だ。
先進電池メーカーである米Solid Powerは、同電池を2026年までに市場に投入することを目指しており、新技術の実用化の可能性を評価するための試験を開始している。研究チームは、エネルギー密度のさらなる向上に取り組んでいる。
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