- 2024-3-14
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リチウムイオンを急速伝導する固体材料が発見された。構成元素が地球上に豊富に存在する無害な元素であるこの新材料は、持続可能な電池の新しい方向性を切り開くものだという。この研究は英リバプール大学を中心とした研究チームによるもので、2024年2月15日付で『Science』に掲載された。
ほとんどの固体電解質では、伝導経路は単一の配位構造だ。これまでの材料設計では、陽イオンの配位変化を最小限に抑えて陽イオン輸送経路を定義できる構造に焦点を当ててきた。
それに対し、今回の研究では、2元系金属間化合物の構造は金属元素より多様性が高いことに着目。2つの陰イオンを用いて、多数の陽イオン配位環境を利用した3次元の超リチウムイオン伝導の経路を構築した。
研究チームが設計した新しい固体電解質は、金属間化合物系に類似したイオン配置を持つ「Li7Si2S7I」をベースとするものだ。Li7Si2S7Iは純粋なリチウムイオン伝導体で、硫黄錯体とヨウ素錯体を収容するために、六方最密充てん構造とせん断面心立方様のモチーフを交互に繰り返し、陰イオン充てんが可能となる。この構造はニッケルジルコニウム(NiZr)に類似している。
こうして得られた材料は、結晶学的には分離しているリチウムサイト15個が相互に連結して1セットとなっている。さまざまな幾何学構造と陰イオン配位を持つため、リチウムイオン伝導経路が多様になり、高い伝導性を示す。
この新材料は、現在のリチウムイオン電池技術で使用されている液体電解質に取って代わるのに十分な高いリチウムイオン伝導性を持つ数少ない固体材料であり、安全性とエネルギー容量を向上させる。
今回の研究で、イオン環境の範囲が非常に狭い少数の固体だけでなく、移動イオンにとって異なる環境を多く持つ固体が非常に優れた性能を発揮できることが分かった。研究チームは、今回の設計アプローチは固体中のイオンの高速運動に依存している高性能材料発見のための、新しいルートを提供するとしている。
リバプール大学の研究者らが下す決定をサポートするため、物理学に基づく計算とAIを用いた算定および実験の共同ワークフローが使用された。
近年、潜在的な新材料発見のためにAIツールを使用することを歓迎する論調があるが、その場合、AIツールは独立して動作しているため、訓練に使われたさまざまな方法で、ものを単に再現する可能性が高い。その結果、既知の材料と非常によく似た材料を生成する可能性がある。それに対し、今回の研究は、専門家がAIとコンピューターを結集させることで、現実世界での材料発見という複雑な問題に取り組めることを示しているという。