金属を使わない生体適合性電極――MIT、柔軟で印刷可能なインプラント用電極を開発

Credits:Image: Felice Frankel

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、生体組織のように柔軟かつ耐久性があり、しかも金属のように電気伝導する、ゼリー状のインプラント用非金属材料を開発した。高導電性高分子とヒドロゲルを複合した材料であり、インプラントなどの電極において、生体適合性に懸念のある金属を置きかえる可能性がある。研究成果が、2023年6月15日に『Nature Materials』誌に公開されている。

ペースメーカーのように体内にデバイスを埋め込むインプラントには、いわば「電子インプラント」と呼べるものがあり、筋肉や神経を電気的に刺激したり、心臓からの電気パルスを外部モニターに伝達したりする。心臓手術から回復段階にある患者には、副作用としての心臓発作を避けるために、心臓表面に装着して数週間に渡り電気的刺激を加えている。

このような電子インプラントでは一般的に金属電極を用いるが、金属には生体適合性に懸念があり、時間経過とともに組織に損傷や炎症を起こし、結果としてインプラントの性能を劣化させることがある。そのような観点から、電子インプラントなどの医療デバイスに向けて、金属以外の導電性高分子を用いて柔軟な電極を作製する研究が進められている。

主に導電性高分子の粉末と、柔らかくて水分の多いスポンジ状高分子であるヒドロゲルを混合し、柔軟で耐久性と生体適合性のある導電性フィルムを得ようとしても、非常に弱くて脆いか、または導電性に乏しい材料しか得られてない。「ゲル材料では、電気的および機械的性質は常に相反していて、両者を両立するのは非常に難しい」と、研究チームは説明する。

これまでの研究は2種類の材料をランダムかつ均一に混合することに注力してきたが、研究チームは、むしろ両方の材料が少し互いに排除する「相分離状態」により、電気的および機械的性質を両立できるのではないかと考えた。そして、相分離状態では全体として混合しているものの、各々の材料を長い紐状に分離して形成できることを見出した。

「まるで電気的および機械的なスパゲッティのようなもの。電気的スパゲッティは導電性高分子であり、連続しているので材料中を電気が伝わり11S/cm以上の電気伝導度を示す。機械的スパゲッティはヒドロゲルであり、これも連続しているので機械的な力を伝え、破壊靭性が3300J/m2以上の耐久性と400%以上の伸縮性を持つことから、電気的および機械的性質を両立できる」と説明する。

さらに、スパゲッティ状ゲルを3Dプリンターに適用できるインクに調整し、金属電極と同様のパターンを3Dプリントすることに成功した。印刷されたゼリー状の電極を、ネズミの心臓や坐骨神経、脊髄にインプラントし、電気的および機械的性質について2カ月間調べた結果、周囲の組織に炎症や損傷をほとんど起こさず、安定して心臓からの電気パルスを捉え、小さな信号を坐骨神経や脊髄に伝えて筋肉や手足の運動を刺激することを確認した。

現在研究チームは、材料の寿命および性能を向上する検討を行っている。それによって、生体適合性のある柔軟な電気的インターフェース、およびペースメーカーや脳深部刺激療法などの長期的なインプラントとして活用できるようになると期待している。

関連情報

MIT engineers develop a soft, printable, metal-free electrode | MIT News | Massachusetts Institute of Technology

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