- 2024-3-14
- 技術ニュース, 電気・電子系
- CMRS効果, RS効果, スイッチング電圧, スピントロニクス, ホウ素(B)添加半導体Ge, 二端子デバイス, 半導体Ge, 巨大磁気抵抗スイッチ効果, 抵抗スイッチ効果, 抵抗変化, 東京大学, 東京大学大学院工学系研究科, 海洋研究開発機構, 産業技術総合研究所, 研究
東京大学は2024年3月13日、同大学大学院工学系研究科と産業技術総合研究所、海洋研究開発機構の研究グループが、鉄(Fe)と酸化マグネシウム(MgO)の2層構造からなる電極をもつホウ素(B)を添加した半導体Geの20nmのチャネル長を有する2端子デバイスにて、磁場で制御できる抵抗スイッチ(RS)効果を初観測したことを発表した。抵抗変化率が、磁場をかけるだけで2万5000%と大きく変化した。
印加された電圧に応じて、素子の抵抗が高抵抗状態と低抵抗状態の間を行き来する現象であるRS効果は、一般的に金属、絶縁体、金属からなる3層構造で生じる。この素子に電界を印加すると、絶縁層中の欠損が引き寄せられて導電性フィラメントが形成され、抵抗が大きく減少、電圧を下げるとフィラメントが切れて抵抗が上昇する。
酸化物が絶縁体層としてよく用いられるが、その中に陽イオンの欠損が存在すると、欠損には複数の正孔が生じる。正孔は欠損付近に強く束縛され、それらの間には強いクーロン斥力が働き、スピンの向きが揃いやすくなるが、「d0強磁性」を誘起するほど強力になることもある。
研究グループは、Fe層とMgO層の2層の電極をもつB添加半導体Geのナノチャネルを有する2端子デバイスを作製し、電圧を電極間に印加した。その結果、典型的なRS効果に見られる電流-電圧特性が観測された。磁場をかけると、抵抗が大きく変化するスイッチング電圧が変化することもわかった。
従来のRS効果では、このような現象が、フィラメントの方向と垂直な方向に磁場を加えた場合に起こることが報告されており、これはローレンツ力で説明されてきた。しかし、今回の研究では、このような現象が磁場方位によらず観測され、抵抗変化率が2万5000%におよぶ磁場による巨大な抵抗スイッチを観測した。これは、「巨大磁気抵抗スイッチ(Colossal magnetoresistive switching:CMRS)効果」と名付けた。
この現象の起源は未解明な点も多く存在するが、研究グループは、MgOのMg欠損内に生じるスピンの向きの揃った2つの正孔が誘起する強磁性であるd0強磁性が、10~15年前からMgOでたびたび報告されていることに着目した。
多くのMg欠損間には引力が働いており、電界を印加するとこれらが集まって導電性フィラメントが形成され、Mg欠損が近づくと二重交換相互作用が働き強磁性が発現する。研究で用いたMgO層は1nmと非常に薄く、強磁性を誘起するには不十分だが、隣接するFeからの近接効果も働き、強磁性に近い状態となる。
この状態に磁場を印加すると、スピンの向きが完全に揃うが、同時にパウリの排他律によって、同じスピンの向きをもつ正孔の波動関数同士は反発する。このため、波動関数が収縮してフィラメントが切断され、抵抗が大きく増大する。
同現象は、20K以下の低温でしか観測されていない。フィラメントの強磁性が弱く、強磁性転移温度が低いためだと考えられ、動作温度を上げる方法がいくつか挙げられる。
今回の結果は、別々に研究されてきた抵抗スイッチ効果とスピントロニクス分野を結ぶもので、将来的に、新たな機能性デバイスの実現につながることが期待される。
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