市販のコンタクトレンズに搭載できる多点マイクロ電極を開発 早稲田大学と山口大学

早稲田大学は2024年5月8日、同大学大学院情報生産システム研究科と山口大学の研究グループが、市販のコンタクトレンズに搭載できる、小さく透明で柔らかい多点マイクロ電極を開発したと発表した。これまで技術的な課題のあった網膜の局所的な応答を測定できる。

角膜上のセンサー電極によって、光刺激に応答する網膜から発生する電位を測定する網膜電図(ERG)は、一般的に網膜変性疾患の検査で利用されており、基礎研究から臨床的な応用まで幅広く利用されている。ERG測定は、検出電極(間電極)、参照電極(不間電極)、接地電極からなる3電極システムが必要で、検出電極は角膜または結膜に、参照電極は測定器のグランドに相当し、耳たぶなどに接地電極を接触させる。

現在は角膜上で測るタイプが主流で、レンズ形状に加工された硬質なプラスチック上に金属が配線された製品が市販されている。こうした一般的な1電極によるERG計測は、全視野網膜電図(FF-ERG)と呼ばれ、網膜の局所的な応答を取得できないなどの課題を有していた。局所的な応答を測定する方法もあるが、これらも課題があった。

研究グループは、これらの課題を解決するため、透明度、電気伝導度、柔軟性に優れるメッシュ電極を作製。ERG計測ができる多電極化、市販のコンタクトレンズ上への接合と局所的絶縁化に成功した。角膜上皮細胞による細胞生死判定、家兎を用いた多電極ERG計測と評価にも成功している。

研究で実現された主な成果

透明で柔らかい金属電極を作製するために、形状(Serpentine、square、zigzag、hexagon)、幅(5、7、9μm)、ユニット幅(200、500、1000μm)を変えたマイクロメッシュ電極を作製し、透過性と10%歪を加えた際の抵抗値変化を評価したところ、すべてのマイクロメッシュ電極で80%以上の透過性を示したが、10%歪は、Serpentineとhexagonのみ歪に耐えうることを確認した。なお、金属は電気めっきで作製された金を用いている。

複合マイクロメッシュ電極性能評価
(ここでは、電極は1本のみ。上図:電圧印加後のメッシュ電極および配線電極のインピーダンス結果、中図:電圧印加による絶縁化概要図、下図:各電極部位における出力電圧測定)

開発したメッシュ電極は、金マイクロメッシュ上にPEDOT導電性高分子が被覆された構造となっており、複合化されたマイクロメッシュ電極においても、80%以上の透過性を有する。

次に、多点電極によるERG計測で、マイクロメッシュ電極から計測に繋げるリード電極の絶縁についての課題解決が必須になることがわかった。そこで、メッシュ電極の導電性高分子のみの導電性を維持する方法として、電極全体の両端に直流電流を印加することで、リード線に流れる電流と金マイクロメッシュ上に新たに流れる電流値を電極構造で制御できるか確かめた。

シミュレーションの結果、電流密度として約70倍以上の電流値の差があることがわかり、実験的にリード線上の導電性高分子のみが過酸化されること、フーリエ変換赤外線分光法による分子振動解析で導電性高分子の構造変化を確かめた。さらに、通電試験により、電圧がマイクロメッシュ電極を介してのみ計測されることを確かめた。

生物学的安全性と動物試験によるERG計測電極としての性能評価では、AuとAu/PEDOT電極上では90%以上の高い生存率を保つが、Zn電極上は生存率が50%以下まで低下することがわかった。これにより、電気メッキで作製したAu/PEDOT複合電極は、十分な安全性を有していると言える。

さらに、開発した複合マイクロメッシュ電極をアレイ化(7電極)した多電極レンズを試作し、家兎の眼に装着させ、各電極からERGが計測できることを確認している。開発したメッシュ電極から取得した網膜電位信号は、市販のERG極と同等の性能を有している。

安全性および多点電極ERG計測評価
(上図:各電極における細胞生存率評価と蛍光顕微鏡評価、下図:家兎を用いたME-ERG計測結果)

これらの成果は、緑内障や網膜色素変性症に伴う盲点評価につながる。研究グループは今後、事業化に向けて臨床試験に取り組んでいく。

関連情報

「透明度」「電気伝導度」「柔軟性」に優れる多点マイクロ電極搭載 コンタクトレンズを開発 – 早稲田大学 研究活動

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