- 2024-8-22
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- Graham Woan, Horological Journal, アンティキティラ島の機械, カレンダーリング, グラスゴー大学, ネステッドサンプリング法, ベイズ分析, マルコフ連鎖モンテカルロ法, 太陰暦, 太陽暦, 学術, 機械式コンピュータ, 重力波分析技術
イギリスのグラスゴー大学の研究者たちは、重力波分析技術などにより、「アンティキティラ島の機械」を構成するカレンダーリングが、太陽暦ではなく太陰暦に従う可能性が高いことを示した。研究成果は、2024年6月27日付で『Horological Journal』に掲載されている。
アンティキティラ島の機械は、1901年にエーゲ海のアンティキティラ島近くで沈没船を探索していたダイバーが発見した。錆びて破損していたものの、紀元前2世紀に作られたことと、手動で操作する機械式コンピューターの一種として機能していたことが数十年の研究でわかった。日食を予測したり、特定の日付における惑星の天文位置を高精度で計算できたという。2020年には新しいX線画像が公開され、カレンダーリングの下にある等間隔に並んだ穴の詳細が明らかになってきたが、リングが不完全であったことから元々の穴の数は不明であった。アンティキティラ研究者の初期分析では、その数は347~367個である可能性が高いとされていた。
グラスゴー大学の研究者らは、2つの統計分析技術でリングの元の穴の数を精査した。その結果、このカレンダーリングの穴の数は1年を365日とするエジプト暦に対応する365個ではなく、1年を354日とする太陰暦に対応する354個である可能性がはるかに高いことを示した。
用いられた統計分析技術は「ベイズ分析」と呼ばれる手法だ。ベイズ分析は、不完全なデータに基づく不確実性を確率で定量化するもので、残っている穴の位置と6つの破片の配置から穴の数を計算したところ、この機械のカレンダーリングには354または355個の穴があったという強力な証拠が示された。
同時に、ブラックホールの衝突などで引き起こされる重力波を検出する重力波望遠鏡「LIGO」により取得された信号を分析する技術を応用した。ベイズ分析の手法である「マルコフ連鎖モンテカルロ法」と「ネステッドサンプリング法」を用いてカレンダーリングを精査し、リングは77.1mmの半径内に354または355個の穴を持つ可能性が最も高いことを確認した。また、穴は驚異的な精度で配置されており、各穴の間隔の半径方向の平均ばらつきはわずか0.028mmであった。
この研究結果は、アンティキティラ島の機械のカレンダーリングが、太陽暦ではなく太陰暦に対応したものだという可能性を大幅に高めている。この論文の著者の1人である物理天文学部のGraham Woan教授は「この驚くべき機械がギリシャ人によってどのように作られ、使用されたかについての理解を深めるのに役立つことを願っている」と述べている。