深海熱水噴出孔構造を解析――熱水噴出孔が発電していることが明らかに 理研、科学大、高知大

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センターは2024年10月3日、東京科学大学、高知大学と共同で、マリアナ海溝北東斜面の水深約5700mに位置する、深海熱水噴出孔の構造を詳細に解析したと発表した。イオンを選択的に運ぶための小さな通路が熱水噴出孔の中に存在し、熱水噴出孔が発電していることを突き止めた。

研究チームはこれまでに、黒煙を噴出するブラックスモーカー型熱水噴出孔の解析に取り組み、この噴出孔が燃料電池のように発電し、その電気を使って二酸化炭素から有機分子が生成されることを明らかにしている。

今回はもう一つのタイプである、90℃程度の温和なアルカリ性の熱水を噴出するホワイトスモーカー型熱水噴出孔を解析した。ホワイトスモーカー型熱水噴出孔は、マグネシウムやシリコンなどの金属水酸化物が主成分となり、細孔をたくさん持つ多孔質状の構造を作り出す。この特異な構造と環境が生命起源に関する重要な手掛かりを提供する可能性があると考えられている。

そこで、地球上で最も深い海溝の一つであるマリアナ海溝の北西側斜面、水深約5700mに位置する「しんかいシープフィールド」から採取した熱水噴出孔サンプルの構造解析を実施した。この場所では、カンラン石と水が反応してできたアルカリ性の熱水により、板状の形を持つブルーサイトと呼ばれる鉱物を主成分としたホワイトスモーカー型の熱水噴出孔が作り出されている。

採取したサンプルからは、大きさが100nm程度の小さな板状の結晶が集合して分厚い膜を作り、熱水と海水の通り道を作り出していた。この膜は、周期的なしま模様が刻まれ、これが何層にも重なり、200~400μmの厚さに成長していた。

マリアナ海溝から採取した熱水噴出孔サンプル(a)深海熱水噴出孔のサンプルの写真。(b)サンプルの光学顕微鏡写真。(c、d、e)サンプルの電子顕微鏡写真。

次に、放射光X線回折実験を行い、鉱物から出来上がった膜の構造を詳しく調べた。スキャンした試料の全体にわたって、板状の形を持つブルーサイトのナノ結晶が規則正しくきれいに配列し、海水と熱水の通り道から放射状に広がっていた。この配列により、80cmの高さを持つ試料全体に、イオンを運ぶのに適したナノサイズのチャネル(通路)のような構造物が作り出されていた。

熱水噴出孔サンプルの放射光X線回折計測と回折強度の図 (上)熱水噴出孔の内部に含まれるブルーサイト結晶の顕微鏡像と配向性。
(下)ブルーサイト結晶の集積により作り出されるイオンを選択的に運ぶ通路の模式図。

この仮説を検証した結果、ナノサイズのチャネルが持つ表面電荷で、選択的なイオン輸送材料として熱水噴出孔全体が働き、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、水素イオンなどの濃度の違いを電気エネルギーに変換できることがわかった。天然の熱水噴出孔は、選択的に海水中の多様なイオンを運ぶことで、電気エネルギーを生成する浸透圧発電システムとして機能する可能性が考えられる。

熱水噴出孔サンプルのイオン輸送評価 (左)熱水噴出孔サンプルの発電特性を評価している様子。
(右)熱水噴出孔サンプルでカリウムイオンと塩化物イオンが選択的に輸送される模式図。

今回の研究結果は、地質学的な過程により、生命に不可欠なイオンを利用したエネルギー変換が自然に生じることを示した。イオンの濃度差は自然界で広く見られ、生命が誕生する以前の太古の地球でも同様の現象が起こっていた可能性がある。

最近の研究では、土星の衛星エンケラドスなどの氷に覆われた天体で熱水活動が確認されており、将来、これらの天体からのサンプルを持ち帰って詳細に解析することで、類似した構造と発電現象が見つかる可能性がある。

また、この研究成果は、海水と淡水を利用する浸透圧発電のための新たな材料合成法としても期待され、持続可能な開発目標(SDGs)にも寄与する。

関連情報

深海が作り出すイオン電池を発見 | 理化学研究所

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