- 2024-10-16
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名古屋工業大学は2024年10月15日、同大学生命・応用化学類の研究グループが、常温かつ短時間で酸化モリブデンとカーボン系の複合粒子を合成できるプロセスを開発したと発表した。
安価で衛生的な飲料水を供給する手段として、太陽熱界面蒸気生成(ISVG)法を用いた淡水化技術が注目されている。
同技術は、太陽光を熱に変えて水面付近にエネルギーを閉じ込めることにより、高い水蒸発効率で淡水を回収するものだ。ただし、既存の光熱変換触媒では光吸収範囲が制限されるため、エネルギー変換効率の向上が課題となっていた。
酸化モリブデンは、可視光域や近赤外光域で優れた光吸収能を発現できる。今回の研究では、水素イオンをドーピングすることで、市販の酸化モリブデンから準安定相のMoOx(HxMoO3-yおよびMoO2)を合成することを目指した。
新たな合成手法として、メカノケミカルプロセス(物質に大きな機械的エネルギーを加え、結合状態を変化させるプロセス)に注目。汎用プラスチックのポリプロピレン(PP)を市販の酸化モリブデンとともに短時間処理し、酸化モリブデンとカーボン系の複合粒子を常温合成した。
合成材料の構造評価や解析、処理エネルギーに関する理論計算、脱ガス挙動の合成条件依存性調査などにより、反応機構を検討した。材料間(MoO3-PP)の反応により、PPの分解と併せて酸化モリブデンの還元が促されるほか、PPが反応過程でカーボンに変換されて複合構造を形成することが示唆された。
開発した複合粒子は、200〜2000nmの紫外-近赤外域において高い光吸収能を示している。
また、試作した光熱変換触媒担持シートを水面に浮かべて近赤外光を照射したところ、すぐに温度が上昇し、水面付近が局所的に高温となった。水蒸発速度が3.29kg m-2 h-1に達したほか、エネルギー変換効率が約90%で、長時間安定性も有することが判明している。
さらに、複合構造が形成されることで、光エネルギーを化学反応に変える光触媒の機能も発現することが判明。光触媒機能の酸化分解促進により、可視光や近赤外照射下でアゾ色素系汚染物質(メチルオレンジ)を短時間で分解、除去できることを確認した。
加えて、光触媒反応機構の特定結果や合成物質の電子構造評価から、MoOx相の構成組成を制御することが性能の最大化にとって重要であることも明らかになった。
なお、光を照射しない状態でも、汚染物質や重金属類を高い効率で除去できることが判明している。分析したところ、副生したカーボンの表面構造が酸触媒機能やイオン吸着能の向上に資することが判明した。
今回開発した技術を用いることで、太陽光を活用できない状況でも安定したパフォーマンスが見込めるため、飲料水の安定した供給に向けた技術の開発に寄与すると期待される。
また、今回用いたメカノケミカルプロセスは、プラスチックや酸化物の種類に関わらず適用可能で、従来の原料の機能向上や廃プラスチックのアップサイクリングにつながることが期待される。
同研究チームは今後、合成プロセスのスケールアップに向けて、設備仕様を変更した際も安定した品質が得られるかどうかを検証する。さらに、多機能性を決定づける化学構造や制約環境因子を解明し、大型の試作システム構築や屋外検証を進めることで、次世代触媒による淡水化技術の実用可能性の拡張を図る。
関連情報
酸化モリブデン/カーボン系触媒の常温・短時間合成技術を開発 -水不足のない社会の実現を加速化する次世代触媒として期待-|国立大学法人名古屋工業大学