- 2025-1-9
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- Central Neutron Detector, CLAS12, Physical Review Letters, Thomas Jefferson国立加速器施設, クォーク, グルオン, フランス国立科学研究センター, マシンラーニング(ML)技術, 中性子, 大立体角スペクトロメータ, 学術, 核子, 深部仮想コンプトン散乱実験, 深部仮想コンプトン散乱(DVCS)実験, 陽子, 電子
フランス国立科学研究センターを中心とする共同研究チームが、アメリカのエネルギー省Thomas Jefferson国立加速器施設において、電子の中性子による深部仮想コンプトン散乱実験に初めて成功し、中性子の内部構造を明らかにする途を拓いた。中性子を構成するクォークなどの粒子分布および中性子のスピンに寄与する角運動量などの情報が得られると期待される。研究成果が、2024年11月20日に『Physical Review Letters』誌に公開されている。
全ての元素の原子核は、核子と総称される陽子と中性子から構成され、核子はクォークとグルーオンと呼ばれるより小さな粒子から構成されている。陽子と比較して中性子の内部構造は余り良くわかっておらず、クォークなどの構成粒子が中性子内部でどのように分布しているか、構成粒子の角運動量が中性子のスピンにどのように寄与しているか、完全には理解されていない。研究チームは、中性子による電子ビームの深部仮想コンプトン散乱(DVCS)実験によって、中性子の内部構造の解明に取り組んできた。DVCSでは、電子ビームがターゲット中性子に衝突して相互作用を起こす結果、中性子は分裂することなく、電子のエネルギーの一部を吸収しフォトンを放射する。最終的に3種の粒子、すなわち、衝突された中性子、放射されたフォトン、中性子と相互作用した電子が検知され、最終状態の解析によってクォークなどの分布および角運動量に関する情報が得られる。
研究チームはThomas Jefferson国立加速器施設にあり、12GeVのビームエネルギーを実現できる大立体角スペクトロメータ「CLAS12」を用いてDVCS実験を行った。CLAS12は、測定が比較的容易な陽子に関するDVCS実験に使用されてきたが、中性子は陽子より広角度で散乱するため、標準配置より40度も広い方向でも検知できる「Central Neutron Detector」を設計し完成させた。初期実験では、陽子が紛れ込む干渉の問題が発生したが、データ解析段階でマシンラーニング(ML)技術によりDVCSから疑似信号を識別排除することに成功した。つまりCentral Neutron DetectorにML技術を適用することにより、中性子についてのDVCS測定が初めて可能になり、中性子を直接解析することができるようになった。
CLAS12における電子ビームは偏光されており、電子スピンは全て同じ方向に向いている。これにより、ビームのスピンに依存する非対称性として知られる観測値を抽出でき、中性子のスピン構造に関する情報が得られる。その結果、クォークがどのくらい中性子のスピンに寄与しているかを定量化でき、核物理の世界で知られていた「核子スピンの危機(注:核子スピンを担うと考えられていたクォークのスピンの寄与が予想よりも低かったという計測結果)」の解明に向けて一歩前進した。さらに、中性子のDVCS測定と従来の陽子のDVCS測定を組み合わせることにより、クォークの2種類のフレーバー、アップクォークとダウンクォークの分布を区別することが可能になる。研究チームは共同研究によって、理論的な予測を実証できるようになり、核物理分野における重要なステップであると考えている。