東北大など、カーボンナノチューブの原子構造を制御する新たな合成手法を開発

表面の酸化度が(a-c)高い場合と(d-f)低い場合の触媒で合成されたナノチューブの(a,d)蛍光-励起マッピング、(b,e)紫外可視近赤外吸収スペクトル, 及び(c,f)カイラリティマップ

東北大学の加藤俊顕准教授らのグループは2017年9月11日、東京大学の澁田靖准教授との共同研究により、カーボンナノチューブの新たな原子構造制御法の開発に成功したと発表した。

カーボンナノチューブは、グラフェンシートが円筒状に巻かれた構造を持ち、優れた基礎物性を有する。特に一層のグラフェンシートで構成される単層カーボンナノチューブが、半導体となり得る特性のため、産業応用面での期待が高い。一方、グラフェンシートを円筒状に丸める際の螺旋度に相当する「カイラリティ」と呼ばれる原子構造で物性が決定され、さらに原子1個分ずれると物性が金属から半導体へ変化してしまうため、産業応用に向け、原子レベルで構造制御合成する手法の確立が課題となっていた。

ナノチューブのカイラリティ制御は世界中で研究が行われており、近年では、特定の結晶方位を持つ触媒を用いることで1種類のカイラリティのみを選択的に高純度合成する手法が報告されている。しかし触媒の結晶方位は触媒金属の種類で決まるため、この手法で合成できるカイラリティの種類は限られる。今回の研究では、結晶方位に比べ自由度の高い表面状態に着目した触媒表面状態制御により、さらに多くのカイラリティ種に対して選択合成できる手法の開発を目指した。

カーボンナノチューブの合成には、同グループが開発してきた拡散プラズマ化学気相堆積(CVD)法を使用した。今回はナノチューブ合成を行う前に触媒を高真空下で加熱処理する前処理プロセスを新たに導入。そこで微量の反応性ガスを導入することで、触媒表面の酸化度を精密に制御できることが判明した。この手法を用いて表面状態を制御した触媒を用いてナノチューブ合成を行い、カイラリティと触媒表面状態との関係を明らかにする実験を行った。

酸化コバルトが支配的な前処理なし触媒と、前処理により50%程度を還元したコバルト触媒を用いて同条件でナノチューブ合成を行ったところ、前処理なし触媒では(6,5)ナノチューブが支配的であったが、前処理で50%程度の還元を行った場合(6,4)ナノチューブの成長が著しく促進され、同じ種類の触媒を用いた場合でも、表面酸化状態によりカイラリティの種類が変化することを世界で初めて明らかにした。

触媒の表面酸化度とカイラリティ選択性発現の起源を解明するため、第一原理計算と理論モデルによる検討を行った結果、今回の研究での前処理によるカイラリティ選択性が、触媒表面におけるナノチューブとの結合エネルギーの違いにより発現することが明らかとなった。

また本研究で得られた(6,4)ナノチューブは従来手法では選択合成できなかった。これまで選択合成が報告されている他のカイラリティに比べ最も直径が細く、バンドギャップが広い半導体特性を有し、最も高い量子効率を持つことも予測されていることから、優先合成に成功したこと自体が重要な成果となる。次世代の光電子デバイスへの貢献が期待される。

今回の手法を活用することで、今後、これまで実現されていない他のカイラリティ種に関しても、選択合成の実現が期待でき、カイラリティ制御合成という課題解決に向けての進展が期待される。

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