- 2019-1-25
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- 3Dプリンター, 3Dプリント, CLIP(連続液界面製造), Science Advances, ミシガン大学, 光造形(SLA)技術, 学術
アメリカのミシガン大学の研究チームは、従来より100倍速く3Dプリントできる光造形(SLA)技術を発表した。2種類の異なる波長の光を使ってレジンの硬化をコントロールすることで、印刷速度毎時約2mを達成した。研究成果は2019年1月11日付けの『Science Advances』に掲載されている。
3Dプリントはコストのかかる金型がなくても複雑な造形が可能なため、比較的小規模の製造業をはじめ非常に注目されている。プラスチックフィラメントを用いたFFF(熱溶融積層)方式や、光硬化性レジンを用いるSLA方式などいくつか方式はあるが、そのほとんどは印刷速度が遅く量産ラインで使用するにはまだ問題がある。
もともとSLA方式には、レジンが硬化する際に光の透過窓にも貼り付き、造形を止めてしまうという欠点がある。その解決策の一つとして、酸素透過窓を使ったCLIP(連続液界面製造)が考えられた。酸素と反応したレジンは硬化せず、造形物と窓の間にデッドゾーンと呼ばれる凝固が阻害された液体の層を作ることで、連続的な造形を可能にするものだ。しかし、このデッドゾーンはセロハンテープほどの厚みしかないため、レジンの粘性を低くして、造形物を引き上げたとき下面に回りこみやすくする必要がある。そのために、造形物は大きさと用途が限定されていた。
研究チームは硬化問題の解決策として、酸素ではなく第2の光を採用した。光硬化剤と硬化阻害剤という相反する材料をレジンに添加。光硬化剤は青色光(458nm)、硬化阻害剤は近紫外光(365nm)に反応する。特定の波長の光のみ反射するダイクロイックミラーを用いて2つの光を重ね合わせ、透過窓を通してレジン槽に投影する。青色光で硬化を進めると同時に、近紫外光で窓付近の硬化を抑制するという仕組みだ。
2波長の強度比を変えることで、硬化抑制範囲を制御し、窓と造形物の隙間を広げることができた。これにより、造形物の下面のレジンは硬化せずに次々と流れ、高速度での連続印刷を可能にした。
大学のロゴであるM形ブロックや船のフィギュアなどを試作し、印刷速度は毎時約2mを達成した。これは従来のSLAの印刷速度の100倍で、CLIPを使ったSLA(毎時数十cm)と比べても速い。またピクセルごとに青色光の強度を変えると、1回の露光で凹凸のある浅型レリーフが作製できることも確認した。
SLA方式に多波長システムを適応したことで、印刷速度の向上による量産化はもちろん、材料の光反応を利用した微細加工など、3Dプリントの新たな可能性が期待される。
研究チームは、今回の技術が「まさに真の3Dプリンターと言える」として3つの特許を出願。さらにスタートアップの設立の準備を進めているという。