早稲田大学は2019年2月21日、冷やすと膨張する「負の熱膨張」という現象が生じる稀有な物質である「逆ペロブスカイト型マンガン窒化物(Mn3AN)」を研究対象とし、その現象が発生する仕組みを同大学理工学術院の望月維人教授と青山学院大学大学院博士前期課程の小林賢也氏が解明したと発表した。負の熱膨張物質を普通の物質と組み合わせれば、新材料の実現が見込める。
Mn3ANが負の熱膨張を示すことは40年以上も前から知られていたが、その物理的なメカニズムは明らかになっていなかった。Mn3ANでは、温度が下がるとマンガンイオン上の電子スピンのベクトルが整列するが、それと同時に体積の膨張が起こる。そこで、望月教授と小林氏の研究チームは電子スピンの整列現象と負の熱膨張現象に関係があると考え、研究を開始した。
研究チームは量子力学に基づき、Mn3ANの電子状態を考察。それにより、電子スピン同士を反平行に揃えようとする相互作用と、平行に揃えようとする相互作用の2つの相互作用が電子スピン間で働いていることを発見した。次に電子スピンの整列現象を再現する数理モデルを構築し、電子スピン間に働く2種類の相互作用のマンガン間距離依存性と結晶格子の弾性エネルギーを、同モデルにより解析した。
発表によると、「相反する相互作用が強く競合しているために、通常の物質のように体積を収縮させるよりは、むしろ膨張させることでイオン同士を離した方がスピン間の相互作用が強まる。そのため、温度を下げていき、電子スピンの整列が起こると、スピン間相互作用を強めるために結晶体積が自発的に膨張し、負の熱膨張現象が起こる」ことが解析によって判明したという。
本研究の成果は、2種類の真逆のスピン間相互作用が競合する物質では、負の熱膨張現象が起きる可能性が高いことを明らかにした。通常の物質と負の熱膨張物質を組み合わせれば、温度変化を受けても体積や長さが変化しない材料が実現する可能性があり、負の熱膨張物質には産業応用上の高い需要がある。研究チームは今回の研究を基に、未知の負熱膨張物質の有望な候補となる結晶構造を提案している。