1つの試料で超伝導の発現条件を明らかに――強相関物質を用いた有機トランジスタで、電子の「数」と「動きやすさ」を同時に制御 理研など

有機強相関物質の模式図(左)と条件を変えた時の電子状態(右)

理化学研究所は2019年5月11日、強相関物質を用いて柔軟な有機トランジスタを作製し、1つの試料で電子の数と動きやすさを同時に制御することで、超伝導の発現条件を明らかにしたと発表した。同研究は、自然科学研究機構分子科学研究所、名古屋大学および東邦大学と共同で行われたものだ。

強相関物質とは、狭い領域に電子が閉じ込められることで電子同士が強く反発し、本来金属に電圧をかけると電子が動いて電流が流れるはずが、絶縁体になったり逆に超伝導体になったりする物質のことだ。

その代表例である「銅酸化物高温超伝導体」は、少量の不純物を入れる「ドーピング」によって母体となる絶縁体の電子の数を変えることで、高温超伝導が発現する。また、柔軟性のある有機物でも強相関物質が存在し、それに圧力をかけて電子を動きやすくすると超伝導体になることが分かっている。しかし、これまでは電子の数か動きやすさのいずれかしか大きく変化させられなかったために、その両方の条件を同時に調べる方法が無かった。

今回の研究では、BEDT-TTF(ビスエチレンジチオ-テトラチアフルバレン)という有機分子からなる強相関物質を材料として、電気二重層トランジスタを作製した。このデバイスは、試料表面に0.5V程度のゲート電圧をかけることで、自在に電子を増やしたり減らしたりできるものだ。さらに、有機物を用いているために、曲げることで電子の動きやすさも変えられる。

そして今回、この2つを細かく変化させることで、1つの試料の中で超伝導状態を制御することに成功、超伝導が現れる条件を明らかにした。例えば、電子数を増やしても減らしてもいずれでも超伝導状態が現れるが、双方でその現れ方の条件に本質的な違いがあることなどが分かった。

何もしない状態(左)では、電子は分子の作る「座席」に一つずつ留まって絶縁体になっている。電圧を加えて空席や余り物の電子を作ったり(中)、基板を曲げて座席同士の距離を変えたりすると(右)、そのニつの操作がちょうど良いところで超伝導が起こる。

今回の研究により、従来は複数の異なる物質の実験結果から類推していた超伝導領域の分布を、試料ごとのさまざまな条件の違いを受けにくい単一の試料で描くことが可能になった。今後は、研究対象物質を広げることで、超伝導と磁性(電子スピンの並び方)の関係を実験的に明らかにできると考えられるという。

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