- 2019-6-14
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- Optica, アメリカ国立標準技術研究所(NIST), カリフォルニア工科大学, スタンフォード大学, チャールズスタークドレイパー研究所, 光原子時計, 学術
アメリカ国立標準技術研究所(NIST)は、カリフォルニア工科大学、スタンフォード大学、チャールズスタークドレイパー研究所の研究者らと共同で、チップサイズの光原子時計を発表した。消費電力も少なく、従来のチップサイズ原子時計の約100倍の性能を持つ。共振器から発生する2種類の周波数コムを利用しているのが特徴で、微細加工技術を利用し、量産化も期待できる。研究成果は、2019年5月20日付けの『Optica』に掲載されている。
現在、標準的な原子時計はセシウム原子を利用し、約9.2GHzのマイクロ波周波数で動作する。1秒の定義は国際的に「セシウム133原子の基底状態の2つの超微細準位間の遷移に対応する放射の91億9263万1770周期の継続時間」と定められている。
研究者らは、より精度の高い時計を求め、セシウムより高い周波数で動作する光原子時計に注目している。高い周波数を利用することで、時間をより細かい単位に分割し、高い精度と安定性を持たせられるからだ。光原子時計は、将来1秒を再定義するためにも重要だと期待されているが、現在の光原子時計はサイズが大きく構成も複雑なため、計量学術機関や大学での運用に留まっている。
研究チームが開発した光原子時計は、2つのマイクロ共振器、ルビジウム原子の入ったガスセル、赤外線レーザーなどで構成する。ルビジウム原子はテラヘルツ(THz)帯で振動し、クロックレーザーと呼ばれる赤外線レーザーを安定化する。マイクロ共振器は周波数コムを発生させるために使われる。
2つの周波数コムのうち、一方はTHz帯で動作し、周波数コム自体を安定化させるのに十分な幅を持っている。もう一方の周波数コムはGHz帯で動作し、細かい間隔を持った「定規」として使われ、クロックレーザーをロックする。ギアのように動作する2つの周波数コムの働きによって、ルビジウムのTHz振動がGHz帯の電気信号に変換され、現在の電子機器でも使用できるという仕組みだ。
消費電力は275mWと少ない。不安定度は4000秒で1.7×10-13と、チップサイズのマイクロ波時計よりも約100倍優れている。全体の大きさはコーヒー豆程度だが、携帯型デバイス向けにさらに小型化することができるという。低ノイズレーザーを使用すれば、さらに安定性を上げることもできる。
マイクロ共振器とガスセルの作製には微細加工技術を流用しているので、商品化も視野に入れられる。衛星に搭載する原子時計のバックアップをはじめ、ナビゲーションシステム、テレコミュニケーションネットワークでの利用が期待される。
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