高度な数学者が小学生レベルの引き算を間違えてしまう理由とは

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数学的思考は抽象的思考の頂点だ。しかし、スイスのジュネーブ大学(UNIGE)とフランスのブルゴーニュフランシュコンテ大学の研究チームの調査によると、ハイレベルな数学者であっても、小学生レベルの算数の文章問題を間違えることがあるという。研究結果は、2019年6月28日付けの『Psychonomic Bulletin&Review』に掲載されている。

学校で教える算数では、オレンジとリンゴを合わせてデザートを作ったり、花瓶の数に合わせてチューリップの花を分けたりと、日常生活の具体的な例を使っている。研究チームは、日常生活の知識は数学的推論にどの程度影響するかを調査した。調査対象となったのは、標準的な大学教育を受けてきた成人グループと、ハイレベルの数学者のグループだ。

我々は数字を見ると、心理的に数直線上もしくは集合としての値として考える傾向にある。そこで、研究チームは、被験者に同じ値・数式・解を持つ問題を、文脈を変えて出題した。問題は全部で12問で、そのうち6問は、身長、建物が完成するまでの時間といった、内容を数直線で表すことができる問題。残りの6問は、動物の数、レストランでの会計といった、要素が集合としてグループ化できる問題だ。下にそれぞれの例を挙げる。

問1「小人Aがテーブルの上に登ると、高さ14cmになります。小人Bは小人Aより2cm低く、同じテーブルに登っています。小人Bはどれくらいの高さになりますか」

問2「花子さんは猫と犬を14匹飼っています。太郎さんの飼っている猫は花子さんより2匹少なく、犬の数は同じです。太郎さんは何匹動物を飼っていますか」

どちらも小学生レベルの算数で、14-2=12で解ける。しかし、正解率は問1と問2で大きく差が出る結果となった。成人グループの正解率は、問1が82%、問2は47%。さらに驚くべきことに、数学者グループの場合は、問1が95%、問2になると76%に下がったという。問2を間違えた参加者たちは「解なし」と考え、正解した参加者も、解答に時間がかかったという。

この結果について、人が持つ一般的な知識が単純な計算を妨げたためと研究チームは考えている。つまり、人は集合の問題では部分集合の値を自動的に使おうとするため、問2で花子さんの犬の数を計算しようとした結果、犬の数がわからないため解けない問題だと考えてしまったということだ。そして、これは抽象的で文脈に依存しない推論を習得している数学者でさえも、無関係の非数学的知識のため、単純な計算を間違ってしまう場合があることを示している。

直感的に解ける数直線問題と異なり、集合問題は視点を変える必要があることを、数学教育では考慮に入れる必要があると論じている。「非数学的な直感から我々自身を切り離す必要がある」と研究チームは結論付けた。

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Expert mathematicians stumped by simple subtractions

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